ぷろろーぐ

「あの……」

「……」

また、か。
何度目かのデジャヴを感じながら、私は小さく溜め息をついてプリントを持っている手をフラフラとさ迷わせた。このデジャヴの原因は私の後ろの席の彼だ。いつもアニメ雑誌を読んでいて、ろくに返事をしてくれない。だったら私だって話しかけないまでだ。と拗ねてみたのは新学期5日後。
だが、その作戦には1つ欠点があった。その欠点が今の状況。そう、プリント事件(まんまとか言わない)だ。なんと彼は、プリントすらまともに受け取ってくれないのだ。しかしここはぐっと我慢して、私は彼――、基浅羽祐希くんの机にプリントを置いて、前に向き直った。
毎度のことながら、周りを見回してみれば私の列が1番プリントまわりが悪い。何故か私が申し訳ない気持ちになりながらそろそろまわったかとチラと後ろを伺ってみれば、いつの間にかプリントは後ろまで渡されていた。そのことに少しイライラする。もしかして彼は、私のことが嫌いなのだろうか。だから私がまわすプリントを受け取ってくれないのか。だったら仕方ない。仕方ないけど腹が立つ。だから私だって彼を嫌いになってやる。と、そう思ったのはいつからだっただろう。まぁ、そんなことはどうでもいいことなのだけれど。

「げ、」

その矢先、もう一枚回ってきたプリントに、私は再び顔を歪めることとなった。

比較的短気な私が、未だに彼に怒りを爆発させていないのは、彼が誰に対してもそんな反応だからだ。ただ、松岡くんや橘くんとは仲がいいようで、たまに話しているところを見かける。どうやら彼らは幼馴染らしい。他にも数人そんな人がいて、そのグループでご飯を食べたり、遊んだりしているのだと、周りできゃいきゃい騒いでいる女の子たちが教えてくれた。その辺だけ辛うじて拾って、他の内容は流してしまったが。
その女の子たちがそんなことを教えてくれたのは、なんと言っても彼がかっこいいから。らしい。かっこいいかっこいいと囃し立てられている彼。確かに、端正な顔立ちをしていることは認めよう。だが如何せん、性格が気に食わないのだから仕方ない。
苦手な人とはなるべく関わらないようにするのが私のポリシーだ。だからもう私は彼を見ない。そう決めた。……プリントをまわす時以外は。
なんで関わらないようにした彼にこんなに振り回されなければいけないんだ。馬鹿馬鹿しい。
はぁ、と息を吐き出して、私はパタリと机につっぷした。
早く席替えをしてくれないだろうか……。






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