いただきました

あれからというもの、浅羽の態度はもとに戻った。そして私も、なんとか以前のように接することができていると思う。「仲直り出来てよかったね」何て言うクラスメートの皆さんに対する作り笑いにも慣れてきた。
唯一変わったことと言えば、

「ねぇ浅羽、」

「なんですか」

浅羽が目を合わせてくれなくなったことだろうか。私は未だにそれに慣れていなかったりする。以前はこれも嫌いな原因のひとつだったのにだ。つくづく自分が信じられない。
相変わらず目はあわなくて少し気にくわなかったが、とりあえず気にしないことにした。

「浅羽って彼女作ろうとか思わないの?」

「……」

浅羽と目があった。それはもうバッチリと。すぐにそらされてしまったが、久しぶりにあった目と、思わぬ反応に、私は少し興味を持った。
いつもはだいたいふざけてるのかと怒鳴りたくなる(というか怒鳴る)答えが即座に返ってくるのに、今回はヤツの空気が一瞬止まったように感じたのだ。

「何でですか。」

「特に意味はないけどさ。
あんたなら彼女の一人や二人、すぐに出来そうじゃん。」

「どうでもいいじゃないですか。」

おーおームキになっちゃって。
なんとなく、本当になんとなく聞いてみた内容だった。強いて言うなれば、クラスにいた公認カップルなるものが視界をちらついたからだろうか。
しかし予想外の反応だ。これは何かあるぞ。そう思いながら、私はわずかに身を乗り出した。口端が妙に上がるのはどうしてだろう。私にも多少は女の血が混ざっていたか。

「どうでもいいけどさ、気になるじゃないですか。」

「……天草さんはいないんですか。」

「何が?」

「好きな人、とか。」

「いないよ。」

生まれてこの方できたこともございません。悲しいことにね。肩を竦めて見せると、浅羽は目を反らしたまま呆れたような表情を見せた。
なんだその反応は。仕方ないじゃないか。部活に勉強、そればっかりしてきたから恋愛なんかする余裕なかったんですよ。
話を自分からそらそうと言う魂胆だろうがそうはいかないからな。

「そんな反応するってことは、あんたは好きな人いるんだ?」

「なんでそうなるんですか。」

「否定か肯定で答えなさい。」

「……否定で。」

女の人苦手ですし。と付け加えられたそれは、なんだか腑に落ちない。なんてったって、

「私も女だし。」

「あー、除害しといてください。」

女と言う分類から除外されてしまいました。なんとなく予想はできたけどね。
頬杖をついて窓の外を眺める浅羽に習い、私も同じことをしてみた。ぼんやりと雲を見ていると、そういえば、と子供の頃のことを思い出した。
あの頃は今より可愛いげがあったのかもなぁ。なんて思いながら、浅羽に向かって身を乗り出す。

「あったあった初恋!
あの、顔があんパンのヒーローだ!」

「……ぷっ」

「ちょっ、純粋な私を笑わないでよ!」

「いや、だってそれは……」

顔はあまり笑っていないのに、心底笑われているような気がするのはどうしてだろう。我ながらあり得ない初恋だとは思うけれど。
浅羽は変な笑みを見せながら、ようやく私とちゃんと目を合わせた。

「それカウントしちゃうんですか。」

「仕方ないでしょー。好きだったんだよ当時は。」

私もなんだかおかしくなってきて、笑いながらそう返した。
その瞬間、カシャッと作られたようなカメラのシャッター音。音の方を見ると、にやけ面で携帯を構えた橘くんと無表情でこちらを見つめる浅羽くんがいた。思わず呆然とする私に、橘くんは満面の笑みで携帯を軽く振って見せる。

「いただきましたー!」

「ましたー。」

浅羽くんまで……。
そういえばお昼休みに入って約5分。きっと浅羽をお昼に誘いに来たのだろう。帰りが遅い2人の様子を見に来たような松岡くんと塚原くんを教室から押しやり、2人はあっという間に消えてしまった。
友達はというと、やっぱりにやけ面でこっちを見ていて。

「……なんていうか、ごめん……?」

「まったくです。」

ふんっ、とやけに偉そうに腕を組んで見せる浅羽に雑誌を投げつけてから、私は弁当を片手に席を立った。
なんだって言うんだ。本当に。皆して私と浅羽をどうしたいのだろう。



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