ちがう?ちがわない?

『 祐希は、天草さんが好きなんだと思います。 』


「……」

いやいやいや、やっぱりあり得ないよ。だって少しでも好いてくれているならあんな態度しないもの。
私は大きく頭を振って枕に顔を埋めた。何て言うかもう……っ

「何でこうなったかなぁっ」

浅羽は私が嫌いで、だから私も浅羽が嫌いで。でも嫌いな人には関わらないことがポリシーな私がここまで関わってしまっている。それだけでもおかしいと言うのに、挙げ句浅羽は私が好き?友達としてというのが付くとしても、そんなことあり得ないよ。

「……、」

否、やっぱりどう考えてもあり得な……

「ひぃっ?!」

その時、突然携帯の着信音が鳴り響き、私は肩を震わせた。バクバクとうるさい心臓を抑えながらディスプレイを見ると、どうやら友達からのようだ。何て言うタイミング。しかも電話で。
何だか浅羽ネタの話のような気がして、私は居留守をしようか迷った。でも結局は居留守をしたとしても明日には捕まるのだろう。教室じゃないだけマシか。しぶしぶ通話ボタンを押して、私は携帯を耳に当てた。

「遅い。
居留守使おうとしたでしょ?」

バレた。本当に私のことどこかで見てるんじゃないだろうな。どきりとしながらも、一応否定はしておいた。

「で、何の用?」

「そうそう!
どうだった?本屋でのデートは!」

やっぱりか。私は半ばうんざりしながらベッドに突っ伏した。
どうして私の回りの人は私と浅羽の関係を近づかせたいのだろう。そもそもデートじゃないし。

「何もないよ。
約束通りに漫画買っただけ。」

「えー。
ホントにぃ?」

「ホントに!」

まったく。電話越しで友達の笑い声を聞きながら私はため息をついた。
私は浅羽には何の感情も抱いてない……なんてことはないが、少なくともそんな、好きなんて感情はないよ。

「でも、ちょっとは好きでしょ?」

「な……っ」

そう話した私に友達は語尾に笑顔を含ませながら尋ねてきた。全力で否定するところだ。いままでなら。でも私は口ごもってしまった。
な、何でだ。あんなに腹立つのに。今日だってめちゃくちゃムカついて……

「図星かぁ。」

「ばっ、違うよっ!」

「今顔見たら真っ赤なんだろうね。」

「赤くないっ!」

否定しながらふと机に置きっぱなしにしていた鏡に写った自分を見れば、友達の言う通り、顔は赤くなっていた。否でも!この赤さは怒りから来るものであって、断じて恥ずかしさじゃない!自分に言い訳をして、私は粘る友達を一蹴りして電話を切った。

「もー……」

明日どんな顔して学校にいけばいいんだろう。




なんて思っていたらもう学校だ。憂鬱だ。とても。
ガラガラとドアを開ければ、まずニヤニヤと笑顔を浮かべた友達が視界に入って、なんだかもう疲れた。まだ朝だと言うのに。

「邪魔なんですが。」

はぁ、と息を吐き出したその時、後ろから声がかけられ、私は身体を固くした。恐る恐る振り返れば、やっぱりそこにいたのは浅羽だ。扉の前に突っ立っていた私の後ろに、いつもの無表情の彼が、私の気苦労も知らずに飄々と立っている。

『祐希は、天草さんが好きなんだと思います。』

「…………」

「……なんですか。」

「いや、……別に。」

思わず浅羽を凝視してしまった。なんですか、はこっちの台詞だ。なんなんだいったい。お前は私をどうしたいんだ。よほど問い詰めてやりたかったが、ぐっと我慢してドアの前から逃げた。

「あ、天草さん。」

「っ、な、何ですか。」

だが、休み時間。
突然浅羽から話しかけられ、ギクリとした。逃げたい。そう考えてハッとした。
何をこんなに意識しているんだ。気にするな。気にするな私!
恐る恐る振り返れば、浅羽とバッチリと目があった。うっと軽くのけぞった私に、浅羽はほんの少し目を細める。

「変です。」

「は、え?」

かと思えば、突然の罵り。主語を入れてくれ主語を。なんて思いながら、彼の言わんとすることはわかるけれど。浅羽のことだから気づいていないなんてこともあるかと思ったのに、私の態度の変化はバレていたようだ。

「気持ち悪いのでやめてくれませんか。」

「き……っ!?
あ、あんたもうちょっと気を使った言い方出来ないの!?
誰のせいでこうなってると……っ」

そこまで言って慌てて口をふさいだ。こんな言い方、浅羽のせいだと言っているようなものだ。口を手で覆ったままそろりと視線を反らす。浅羽はパチリと一度瞬きをして、

「俺ですか。」

勘づきやがった。
いや、あなたと言えばそうだけど、よくよく考えたら浅羽くんのせいとも言えるしだな。必死に言い訳を考えるが、今日は頭の回転がすこぶる悪い。きっと気が動転しているからだろう。

「漫画、そんなに嫌だったんですか。」

「ちが……っ、い、いや、そうなのかな……」

「気持ち悪いです。」

「に、二回も言うなっ!」

とにかく!このことに関しては時が解決してくれるはずだからもうなしで!
半ば叫ぶようにしてそう言ったあと、私は席をたった。
橘くんが恋患いだと周りのひとに話していたのが聞こえたから、それだけは厳重に黙らせておいたけれど。友達も、きっと何かとうるさいだろうから、今は一人でいよう。まずは飲み物でも買って気分を落ち着かせて……

「わっ、」

「っと、悪い……」

前方不注意。今のは完全に私が悪い。曲がり角からちょうど歩いてきた誰かとぶつかった。しかも相手はなにやらプリントを抱えていたようで、それが廊下に散らばってしまう始末だ。私は慌てて謝ってプリントをかき集めた。

「あ、天草さん……」

「え……?」

突然名前を呼ばれ、私は顔を上げた。
彼の顔を見て、私も「あ、」と声をあげる。ぶつかってしまったのは浅羽たちの幼なじみの人だった。名前はわからないが、私が浅羽にケンカを売ったと噂になった出来事の時に、肩を震わせて笑っていた眼鏡の彼。
名前を覚えられてしまうほどの出来事だっただろうか、あれは。

「あ、えっと……、ごめんなさい。
浅羽の……幼なじみの……」

「塚原要。」

「あぁ、塚原くん。」

ぼんやりとだが聞いたことがある。生徒会役員、だったような。だからかな。
プリントはかなりの量だったので、お詫びに運ぶのを手伝うことにした。てくてくと廊下を歩いている間、案の定会話は続かなかったが、一つ収穫があった。塚原くんが私の名前を覚えていた理由。それは、幼なじみ皆で居るときに橘くんや浅羽が私の話をするかららしい。「天草さん」というお決まりのフレーズがいつしか頭にはりついてしまった。と塚原くんはため息混じりに教えてくれた。

「どうせ変なことばっかり言ってるんだろうな……
あんまり真に受けないでね。」

「変なこと……そうだな。
否定はできねぇな。」

やっぱりか。あいつらしばいてやりたい。ムッとしながらプリントを抱え直すと塚原くんはどこか取り繕うように口を開いた。

「でも、あいつから女の名前が出ることなんかなかなかないからな。
だから覚えてたっていうのもある。」

「、浅羽?」

あぁ、と塚原くんが頷いたのを見て、私は複雑な気持ちになった。なんだか嬉しいような、恥ずかしいような……。あ、あれだ!この気持ちは男友達が出来た喜びだ!そうに違いない。というか、他に何があるんだ。

「それだけ天草になついてんだろうな、きっと。
お、ここまででいいよ。サンキュー」

「えっ!?あ、あぁぁ、う、うん!


だ、ダメだ。なんだこれは。
塚原くんにプリントを渡したあと、私は一目散に駆け出し、自分の教室に入った。
皆して何なんだ。私にどうしろというのだ。時が解決してくれると思ったが、そういうわけにもいかないようだ。

「あ、」

そう言えば、飲み物買うのすっかり忘れてた。



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