うそのようなホント

「あれ、何で天草さんも一緒?」

「漫画買ってもらいます。」

「誠に不本意ながらね。」

どれだけ早くほしいのか、浅羽はその日に早速私を本屋に連れていくらしい。友達についてきてもらおうと誘ったのだが、またいらない気遣いというのかなんなのかを使って別で帰ると言われてしまった。あのニヤニヤとした笑みをうかべながら。
今日は予定が合わなかったのか、一緒に行く人が浅羽くんだけだったのが不幸中の幸いか。あの幼馴染みの皆さんが一緒だったりしたら全力で断らせていただくところだった。だって気まずいし。

「何でそんなことに?」

「いや、ちょっとかくかくしかじかでね。」

経緯を説明すれば、浅羽くんはほんの少し顔をゆがめた。その視線を受け止めた浅羽はプイと横を向く。自分の非を認めるがいいさ。元はと言えばすべて浅羽と橘くんが悪いのだから。

「すみません。
気にしなくていいですよ。」

「え?」

「漫画、買わなくていいです。
悪いですから。」

さすが浅羽くん。
浅羽とは違って常識があるし優しい。少しの感動を味わっていると、浅羽が不服そうな表情をうかべた。あんたも少しはお兄さんを見習いなさいな。きっともっとモテるよ。それはそれで後ろの席が騒がしくなってイライラしそうだけれど。

「いいじゃん。
悠太は黙っててよ。」

「黙ってる訳にはいかないよ。
天草さんにそんなことさせられないし。」

「ちゃんと条件つけた上で天草さんも同意してやったんだから。」

「だからって天草さんに甘えすぎだよ祐希は。
要達みたいな仲なわけじゃないんだから。」

あれ、ちょっとこれ大丈夫?私のせいで兄弟険悪ムードなんだけど。ど、どうしよう。私どうすればいい?
目の前で言い合いを始めてしまった二人に、私はあわあわと狼狽えた。止めるべきなのだろうか、やっぱり。でもどうやって?
相変わらず言われては言い返しを繰り返している二人。これはもう自棄だ。行け私!さっきから通行人にチラチラ見られてるし!

「や、やめなさいっ!」

勇気を振り絞って、向き合う二人の間に割り込んだ。パチリと目をしばたく二人のうちの、まずは浅羽くんに向き直る。

「コイツにはいつもイライラさせられてるから、これくらい平気!ってこともないけど……
と、とにかく気にしてないから!
ね、気遣ってくれてありがとう。
その代わりと言ったらなんだけど、いい参考書とか、あったら教えてほしいな。よろしく!」

何がよろしくなんだ自分。
捲し立てるように言った後、次は浅羽だ。くるりと向きを変えて、キッと浅羽を睨み付けた。

「あんたはどんだけ私をイライラさせる天才なんだ。
さっきから聞いてれば言いたい放題言いやがって……っ
ほとんどの非は、あんたでしょうが。
ちょっとは浅羽くんを見習いなさいっ!」

「俺も浅羽ですが。」

「屁理屈言うな!」

もう、行くならさっさと行こう!
そう言って私は二人の背中を押した。
何でこんなことしてるんだろ。私はいったい何をしようとしているのか、いい加減わからなくなってきた。

「そういえば浅羽くん、あの参考書どうだった?」

「あ、あれよかったです。」

「そっか。ならよかった。
でも解説がいまいち雑なのが困らない?」

「そうですか?」

また言い合いが始まってしわないように、いいことか悪いことかは知らないけれど、私は浅羽くんとの会話を開始した。いつもの二人がどんなのかは知らないが、私はそういうのを笑って流すことは出来ないので我慢していただこうと思う。

「すごいね、私よく詰まっちゃうんだ。
最近やり直してたんだけどさ、142番ってどうやるんだったっけって思っちゃって。」

「あぁ、あれは相加相乗平均を使って……」

「あー!
あったねそういうの!」

そっか。ならわかったかも。と浅羽くんに笑いかけたその時、ぐいと腕を引かれ、私は道のはしに押し出された。なんだなんだ何事だ。何とか体勢を立て直して浅羽を睨み付けると、浅羽も私と浅羽くんの間に割り込んで私を睨み付けていた。なんだって言うんだ何が気に入らない?

「悠太は俺のなんで。」

「はぁ?」

何を言っているんだコイツは。理解が追い付かないのだが。
あれか、ブラコンなのか?
あまりに怪訝そうな顔をしていたからだろうか。浅羽くんが浅羽の頭をぺちんと叩いた。やれやれだ。なんかもう、疲れてきた。

「すみません、天草さん。」

「な、仲良しなんだね。
いいと思うよ。うん。」

早く帰りたい。
切実にそう思う。仕方がないので私は二人の後ろを歩くことにした。歩きながら一度浅羽の靴でも踏んでつまずかせてやりたいと思ったがぐっと我慢した。頑張ったぞ、自分。
気を使ってか、チラチラとこっちを気にしてくれる浅羽くんに笑顔を浮かべて歩いているうちに、やっと本屋にたどり着いた。長い道のりだった。

「で、どれがほしいの?」

「数冊あるんですが。」

「一冊に決まってんだろうがっ」

コイツは私をいったい何だと思ってるんだ。話すようになったのは最近だというのにこの図々しさ。まったく腹立たしい。
どれにしようか悩み始めた浅羽は、浅羽くん曰くすごく時間がかかるらしいから、私は小説のコーナーに足を向けた。読みたい本があったし、私は平気で本屋に1時間居られる人だから、本を眺めるだけでも十分暇潰しが出来る。

「すみません。」

そう声が聞こえて振り返ると、浅羽くんが立っていた。どこか申し訳なさそうな表情の彼に、私は苦笑する。弟思い、というのだろうか。私もこういうお兄ちゃんが欲しいものだ。

「いいよ。
私も本屋寄りたかったし。
お金のことは……、まぁ、目をつむるよ。」

「そうですか。
いい参考書、探しておきます。」

「あぁ、あはは。
ありがとう。」

優しいなぁ、浅羽くんは。
そうポツリと呟けば、浅羽くんはそんなことないです。とまた呟くようにして返してきた。その態度が少しでも浅羽に移ればいいのに。そしたらこんなことにならなかったはずだ。あぁ、こうなった経緯を思い出したら腹立って来たぞ。

「祐希は、天草さんが好きなんだと思います。」

「……は、」

イライラが顔に出ていたからだろうか。浅羽くんがそんなことを言うのは。浅羽くんの言っている意味がわからなくて、私は目と口をポッカリと開けた。浅羽が私を好き?以前嫌いだと言われたんですが。いや、確かに嫌いではないと後で訂正があったけれど、今の私に対する態度とか、全然そんな風には見えないし。

「そうじゃなかったら、こんなふうに本屋に誘ったりしませんから。」

「誘われたっていうか、何て言うかだけど……」

「祐希からしてみれば似たようなものです。」

そう、なのか……?
滅多に見ない真剣な表情で漫画を選ぶ浅羽を見ながら、私は首をかしげた。浅羽が私を好き。その好きはもちろん友達としてだろうけれど。素直に納得する事ができなかった。今までが今までだし、ねぇ……

「あれでもいろいろ考えてると思います。
天草さんのこと。」

「え、えー……」

ならもっと労ってもらいたいものだ。いまいち納得出来ないでいたが、浅羽くんの前で浅羽の悪口に近いことを言うわけにもいかないので、私はしぶしぶ頷いた。
そのまましばらく小説コーナーを探索していると、やっと漫画を決めたようで、一冊の漫画を持った浅羽がやって来た。変に意識してしまったのは言うまでもない。



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