※診断メーカー【愛してると伝えたら】より
放課後手を繋ぎながら帰路について、気まぐれにコンビニに立ち寄って、目に止まった菓子を買って、またブラブラとふたりで歩き出して。そんなささやかな幸福に、憧れを抱かなかったわけじゃない。
それでも、日常の小さな幸福を踏み潰してでも。彼の記憶の一部を占有したいと、心底願ってしまったから。
__愛していると言う彼に、
セックスしたら相手のこと好きになっちゃうよね、と。
いつだったか、派手な格好をした女子達が笑いながら話していた。全ての思考が吹き飛んでしまう快感を、恋愛のときめきと勘違いしてしまうのはよくあることだそうだ。
それは確かに真実なのかもしれない。現に彼は。
「みこ、しば…ぁ!アッ、ぅ、ぁ、す、き…ッ!おまえがッ、ァ、好き、だ…ッ!」
過ぎた快感に大粒の涙を零し、ぎゅぅっと枕にしがみついて、熱に浮かされながら言ったのだから。
すき、あいしてる、きもちがいい。舌っ足らずに繰り返す野崎を、背後から貫いていて良かったと思った。
―彼の告白に目を見開いて、直後に泣きそうに顔を歪めた己の間抜け面なぞ、見られて堪るものか。
「…やめろよ」
そういうの萎える、と。
感情に直結した拒絶の声は、自分でも驚く程鋭く冷えきっていた。冷気を纏った言葉は、野崎の火照った頭も容易く冷やしたようで。彼はピクリと肩を揺らすと、暫くして無言のまま小さく頷いた。
何故、と疑問を投げかけることなく、素直に要望を受け入れる野崎に安堵する。そうだ、それでいい。自分が居座るのはお前の脳内の片隅にだけと、身勝手に決めたルールを、何の疑念もなく受け入れて欲しい。理性を手放して許されざる恋を受容する彼なぞ、見たくはないし認められない。
―本当に野崎の未来を憂うのならば、彼の中に押し入るなど以ての外で。全ての思慕を黙殺して、彼の前から完全に姿を消すべきなのだけれど。
どうしても、それができない理由は。
「…ッ」
「…ぃ…ッ!ぅ…!」
都合の悪い真実から目を背けたくて腰を深く突き入れると、枕に顔を突っ伏した野崎がくぐもった悲鳴を漏らした。俺は彼の後頭部に手を伸ばすと短い黒髪をくしゃりと撫でて、
「…別に、声殺せとは言ってねぇよ。気持ちいいなら喘いでくれよ、な?」
駄々をこねる子供に言い聞かせるような、優しい口調で告げて髪を撫でれば、またもや野崎が無言のままに頷いた。緩く腰を回せば、んん…、と控えめな艶声が彼の唇の隙間から漏れる。
ゆっくりと再開した行為は、下半身を支配する情欲に耐えかねて、徐々に激しさを増していった。
そうして、互いの名前すら呼べぬまま。荒い息遣いと不明瞭な嬌声が満ちた空間に、ふたり分の熱がパチンと弾けた。