2人で一緒に浴室に入り、シャワーでお互いの身体を軽く流すと、早速堀が野崎をバスチェアーに座らせ髪を洗ってやると言ってきた。
後輩である自分が先輩である堀に髪を洗わせるなんて、なんだか申し訳ない。しかし堀がやけに楽しそうなので、大人しく従うことにした。それに今日は1日、堀の要望はなんでも聞くと決めているのだ。
暖かいシャワーで髪を濡らされ、愛用のシャンプーを使い頭皮をマッサージするように泡立てられる。
気持ちがいい。理容店でもこんなにリラックスしたことはない。野崎は1日の疲れが抜けるような心地良さに、ホーッと吐息を漏らした。
やがて流すぞーと声を掛けられ、お湯で丁寧に泡を流される。シャワーを止められ、どうよ?と堀に聞かれた野崎は、まさに夢心地といった表情で答えた。
「気持ち良かった…です…」
「はは、そりゃあ良かった」
そう言って頭をわしゃわしゃと撫でられる。それすらも気持ちが良い。堀の手は、どうしてこんなにも心地が良いのだろう。
未だにボーッと座っている野崎の後ろで、堀は今度はボディーソープをタオルで泡立て始めていた。
「身体も洗ってやろうなー」
「…えっ!?」
さらりと言われた台詞に野崎の頭が覚醒する。
野崎は慌てて振り返り、
「せ、先輩!身体もって…!というか、湯船に浸からないと先輩の身体が冷えちゃいますよ!」
「後で入るから大丈夫だって。ここ、シャワーの湯気であったかいし。ほら、背中からいくぞー」
言うが早いか首筋から背中にかけてタオルを滑らされ、野崎の身体がびくんと跳ねた。どんどん泡だらけになっていく己の身体。こうなってはもう抵抗できない。
腕を上げろと言われて脇を洗われたり、こちらを向けと言われて上半身の前面を洗われたりしながら、野崎は羞恥に耐えた。背中を流してもらうだけなら良いが、他の部分を洗われるのはこんなにも恥ずかしいものなのか、と野崎は唇を噛み締める。
しかし、この程度はまだ序の口だった。
堀が次に告げた要求に、野崎はさらに驚愕する。
「じゃあ、立って」
「えっ…」
「立たないと足、洗えないだろ」
下半身まで洗う気なのか。堀とは全身を晒し合っている仲ではあるが、下半身を洗われる羞恥心はとても拭えるものではない。
しかし、野崎に拒否権はない。震えそうになる足を叱咤して、なんとか立ち上がる。
前面と背面、どちらを向ければいいのかわからず横を向いていると、堀の手でくるりと90度回転させられた。前面だ。堀の目の前に、泡が垂れた野崎の性器が晒されることとなる。
「―〜!!」
野崎は逃げ出したい衝動に駆られた。恥ずかし過ぎる。
堀にそこを見られたことは何度もある。しかしこんなにも明るい場所で堀の目と鼻の距離にそこを晒して、しかも洗われるだなんて経験したことがない。
野崎の心中を知ってか知らずか、堀は野崎の足を洗い上げていく。足の裏や指の股の間も忘れない。
性器も言わずもがな。タオルで優しく包み、竿と袋をソープの泡で洗い上げていく。その繊細な動きに、野崎は泣きそうになった。
性器からタオルが離れると、じゃあ最後は後ろな、と堀は野崎の身体を反転させた。
こちら向きも勿論恥ずかしいが、前面よりはまだマシかもしれない。脛や腿の裏側を擦られながら、野崎はそう思った。
しかし、それは間違いだった。
今まで膝立ちで野崎の身体を洗っていた堀が、野崎の尻たぶを洗い終わった瞬間、急に立ち上がった。
そして、右手の人差し指と中指に新たにソープを絡ませると、左腕で野崎の腰をしっかりと抱く。
「せん、ぱい…?」
「…力抜いてろよ?」
そう言うと堀は、野崎の尻の狭間に指を滑らせ―その奥にある蕾にゆっくりと中指を挿入した。
「…う、ひぃっ!?ひあああああっ!?」
浴室に、野崎の悲鳴が反響する。
「せ、先輩!?何を…!?ひゃぁっ!!ふああああああ!」
「…お前、いつもここ自分で洗ってるだろ?今日は俺が洗ってやるよ…」
そう言って、堀は潜り込ませた中指をぬるぬると出入りさせる。
ソープのおかげで痛みはない。だが、突然の堀の行動に野崎の頭はパンクしそうだった。
それでも、今まで散々堀の肉棒をくわえてきたそこは、勝手にその口を開こうとする。力が緩んできたのを見計らって、堀は人差し指も添えて野崎の後口に差し込んだ。
「うあっ、ああ…!ふあ、あああー…!」
ぐちゅぐちゅと体内をかき回される音と自身の喘ぎ声が浴室中に響いている。野崎は両耳を塞ぎたかった。
しかし、壁に両手を付いていないと膝が崩れて倒れてしまう。口を閉じることも出来ず、野崎は酷い不協和音を聞き続けるしかなかった。
どれくらいの時間が経ったのだろうか。
堀は野崎の後口から2本の指を引き抜くと、野崎の腰を抱えたまま、空いた方の手で器用にシャワーのコックを捻る。野崎の身体に暖かいお湯が浴びせられる。
上から下へ、背面から前面へとシャワーを移動させていた堀だったが、やがて野崎の腰に回していた腕の拘束を解くと、
「野崎、腕放すけど倒れんなよ?」
そう言って片方の手の指で後口を開き、シャワーを近づけて中に残ったソープを洗い流す。
野崎はもう声を上げることもできず、ただ堀の言葉に従って、倒れまいと必死に腕と足を突っ張らせるだけだった。
やがてシャワーの水流が止まる。もういいぜ、という堀の言葉とともに、野崎の膝は浴室の床へと崩れ落ちた。
「大丈夫か?」
堀が野崎の腕を取り肩へと担ぐ。野崎は声を出すことこそ出来なかったが、こくりと小さく頷いた。
野崎は浴槽の淵を掴んでなんとか立ち上がる。堀は野崎が浴槽へと入る手助けをして、彼の頭をポンポンと撫でた。
「お疲れ。そこで身体暖めてな。俺も髪と身体洗うから」
身体はもうある意味熱くなっていたが、野崎は堀の言葉に従った。
お湯に浸かっていればこの疲労感も少しは取れるだろう。むしろ、少しでも取り除いておかなければならない。
今夜、彼と自分は確実に身体を重ねる。そのためにも体力の回復は必須だった。
少し温くなってしまった湯の中で、野崎はそっと目を閉じた。
さすがに大柄な野崎と2人一緒に湯船に浸かることはできなかったので、野崎は先に浴室から出ると半袖シャツと下着を身に纏い、髪を乾かしていた。
身体を暖めたのが功を奏したのか、腰に若干のだるさは残るものの、立つことに支障はなくなっていた。混乱していた頭もだいぶ落ち着ついてきている。
本番はこれからなのだ。堀の要望はまだあるだろう。彼の望みごとは全て叶えると決めている。気を引き締めていなければ。
そう決意を新たにした野崎が髪を乾かし終わると、ちょうど堀が浴室から出てきた。
全身から水滴を滴らせている堀に、野崎がバスタオルを手渡す。
堀はサンキュ、と野崎に礼を言って手早く身体と髪を拭き始めた。
そしてタオルを一旦腰に巻き、
「本当は髪も乾かしてやりたかったんだけどな。時間配分がうまくいかなかった。ごめんな」
「っ、い、いえ、お気になさらず…」
野崎は思わず堀から視線を逸らしてしまった。引き締めたばかりの心に動揺が走る。
先ほどからの堀は変だ。やたらと野崎に構いたがる。今日、自分は堀の言うことを何でも聞くのだから、自分に身体を洗えと命じればいいのに。
「ところで野崎」
野崎が顔を伏せて悶々と考えていると、堀が自分を見上げながら声を掛けてきた。その顔はとても爽やかな笑みを湛えている。
「ちょっとここに座ってくれないか」
ここ、と言われて指されたのは洗面台の前の床だった。野崎は首を捻りつつも大人しくそれに従う。
原稿をする時のように床に正座をすると、更に堀からの要求が飛んだ。
「んで、両腕を挙げてバンザイしてくれ」
「…?はい…」
不思議な要求の連続に頭の中に疑問符を浮かせながらも、野崎は素直にそれをこなす。
堀は笑顔のまま満足げに頷くと、野崎が着用している半袖シャツに手をかけ、腕を抜け裏返しになる要領でそれを脱がせた。裸になった上半身に肌寒さを感じる。
腕降ろしていいぞ、と言われた野崎だったが、頭は困惑したままだった。なぜ上半身を裸にされたのかわからない。堀は脱がせた野崎のシャツを脱衣籠に突っ込んでいる。
意図を聞きたいと野崎が口を開くと、堀がこちらに向き直った。
脱衣籠の中に隠していたのか、その手には今日だけで散々見慣れてしまった白い首輪が握られていた。
野崎は口を開けたままの状態で固まった。
堀は未だ床に正座をしたままの野崎と同じ高さまで身を屈め、彼の首に腕を回すと朝と同じく首輪を付けてやる。ちょうど良い太さの位置にある穴に金具を通して固定すると、堀は野崎の両肩にそっと手を置き耳許で、
「駄目じゃねぇか野崎。折角綺麗に洗ってやったのに…」
笑みを深くすると、ゾッとするような声音で囁いた。
「犬が服なんか着ちゃぁ」
吹き込まれた台詞に、野崎の全身が総毛立った。
野崎は悟る。堀は先ほどから野崎を構っていたわけではないということを。
彼は飼い犬を愛でていただけなのだ。飼い犬を風呂に入れて洗ってやり、乾かしてやりたかった。それが終わったので、また首輪を付けた。それだけのことだ。
野崎は一緒に風呂に入ろうと言われてときめいていた自分が恥ずかしくなった。自分は今日1日、彼の飼い犬だときちんと言われていたではないか。
野崎が頭を垂れていると、堀がその頭をよしよしと撫でてくる。あぁ、愛犬を愛でているのだな、と野崎は今度は認識を違えなかった。
「俺も髪乾かすから、リビングで待ってろよ。風邪引くといけないから、ちゃんと部屋暖かくしてろよ?野崎は良い子だから、ちゃーんと『待て』できるよな?」
子供に言い聞かせるような優しい声音に、野崎ははい、と小さく返事をすると力なく立ち上がった。
そのままリビングに向かおうとする野崎の背に、再度堀の声が掛かる。
「あ、それもちゃんと脱いどけよ」
それ、と言って堀が指したのは野崎が下半身に纏う下着だった。
犬が下着を穿くわけがない。堀の言い分は尤もだ。
野崎は再度はい、と返事をすると、堀を振り返ることなくリビングに移動した。
リビングに入ると適当なところで下着を脱ぎ捨てて、リモコンを操作しエアコンの設定温度を少し上げる。
それだけの動作をした後、野崎は壁に背を預けてズルズルと床に座り込んだ。
適当に床に視線を這わせていると、夕方、堀の上着とともに放られた犬用のリードが入った紙袋が視界に入った。
あぁ、やっとあれのお出ましか。
堀があれを買いに行った時はあんなに戦慄したというのに、今はなぜか身体も心もピクリとも反応しない。野崎は体育座りをしてぼんやりと紙袋を見つめた。
やがて、ガチャリとリビングの扉が開く音がした。