サディスティックブルー






独特なエンジン音を奏でながら、夜道に愛車を滑る様に走らせた。
向かう先は、今宿泊しているホテル。

その屋内駐車場に停めて、足早に部屋へ向かう。

今日の仕事は取り引きが三件だった。
わらしべの様に、取り引きをして得た物を、またすぐに取り引きで変える。
そんな仕事で朝から出向いて、すでに今は深夜に近い状態だった。

さすがに身体が重い。
時間と共に神経が磨り減っていく。

いい加減に気怠さから苛立ちが募り始めたのを感じながら、静かなフロアを通り抜け、エレベーターで部屋のある階まで上がり、その部屋のロックを外した。

そろそろ爆発しそうな怒りに逆らわず乱暴に扉を開ければ、部屋の奥から足音が聞こえる。


ーー誰か居る…


考えると同時にベレッタに手をかければ、ふわりとした声が聞こえた。


「おかえりなさい、ジン」


穏やかで静かな声が聞こえて、ようやく現実に戻る。
そこにいたのは、オレが囲っている都合のいい女達の内の一人だった。


「……マジカル…」

「なぁに?ベレッタなんて出して…貴方、とっても怖い顔してる」


クスクスと困った様に笑むマジカルに力が抜ける。


「…何故ここにお前がいる」

「ふふ、ひどいのね…貴方が私を呼んだのに」

「フン、…記憶にねぇな…。どうせくだらねぇ用だったんだろうよ。その程度のものを、いちいち覚えちゃいねぇよ…」

「まぁ冷たい!」


そうおどけて、微笑みながら投げかけてくるこの女の言葉は、何故か優しさに溢れている。
こんなにも心無い言葉を放っているのにも関わらず、だ。


「ねぇ、早く奥に行きましょう?貴方も疲れてるでしょうし…」


覗き込む様にオレの顔を見ながら微笑むマジカルを鼻で笑い、部屋の奥へと足を進めた。
そのままコートやら帽子やらをソファに放り投げ、オレはシャワーを浴びる。

温度のある水が淡々と身体に当たっては流れてゆくその様をぼんやりと眺めていると、ふと、さっきまでの苛立ちが、マジカルを見てから自然と消えていることに気づく。


「……」


考えたくも無い事実を振り切る様に、手早くシャワーを切り上げれば、珍しいキッチン付きホテルだったためか、マジカルが気紛れに料理をしていた。


「…今何時だと思っていやがる」

「あと少しで午前0時くらいかしら?」

「午前1時だ。…こんな時間に…オレは要らねぇぞ」

「でも、夕飯まだでしょ?少し位食べて」


すぐ作るから、なんて笑みを振り撒いて言うこいつに、空腹でもないオレは溜め息しか出ない。
仕方なく椅子に座り、キッチンで作業をするマジカルの後ろ姿を眺めていれば、目が離せなくなった。

すると心に湧き出てくる、自分とは思えない感情。
その全てに頭を抱えて舌打ちをする。


「あら、これでも急いだのよ。怒らないで…」

「…」

「どうぞ、召し上がれ」


穏やかに笑いながら目の前に出された、ごく一般的な家庭の夕食に、オレは何も言わずに手を付ける。


「お口に合ったかしら?」


…小首をかしげたこいつのその問いには、(完食したが)絶対に答えてやらないと決めた。
そうして時計を見れば既に午前2時を過ぎている。


「…オレは寝る」

「はいはい…片付けは私がやっておくから…」


おやすみなさい、とやっぱり微笑んで言うマジカルを見ながら、椅子から立ち上がりソファに座る。
洗い物をしているらしく、食器と水の音が聞こえた。

飛びそうになる意識で、なんとかソファにずっと座っていれば、ふと振り向いたらしいマジカルが、オレを見て穏やかに笑う声が聞こえる。


「…お待たせ」

「待ってねぇよ」


すかさず言い放ったオレの言葉が余程面白かったのか、クスクスとずっと笑っているマジカル。


「…いつまで笑ってやがる」

「ごめんなさい…でもだって…」

「…もういい…さっさとベッドに入れ」


そう言えば、マジカルは素直にダブルベッドに入る。
オレもその後に続いて、ベッドに入った。
その柔らかさに全身を預けて、オレはマジカルの方を向く。
マジカルもまた、オレの方を向いていて、向かい合う形になれば視線が交わった。


「おやすみなさい、ジン…今日も一日お疲れ様…」


今日一番の優しい微笑みと共に、オレの頬を撫でる心地良い彼女の手と声が、オレを包み込んだ。
そんな現実に、下の腹の辺りと心臓に妙な感覚を感じて視線が泳ぐ。
ついでに顔まで熱い。

それからどの位の間、目を泳がせたか。
ふと視線を彼女に戻せば、既にマジカルは心地良さそうにオレの腕の中で眠っていた。





〜サディスティックブルー〜



冷たい言葉は吐けるのに。
好きだとか、愛してるだとか、結婚したいだとか。
結局どれも、口から出て来やしない。






*******

Q.ハミガキしろ。
A.椅子からソファに移動して、そこからハミガキしに行って、またソファに移動した。2点ユニットバスだから問題ない…などと意味不明な供述をしており…

行動も含めて、本当に伝えたい言葉は中々言えないションボリ系。
サディスティックというより、ツンデレ感が否めないこの体たらく…!
キャラ崩壊はご愛嬌(笑)




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