違った世界







「マダラ…!待て!」


前を走るマダラが、オレの声を聞いてか、ようやく立ち止まった。
そこは、生い茂る木々に囲まれていて、されど森は何かを避けるかのように、ぽっかりと空が丸く仰ぎ見れる場所だった。


「何故だ…何故、行ってしまうのだ…」


オレの問いに、マダラは答えなかった。
ただ彼はゆっくりと振り向き、その瞳にオレを捕らえている。

双方の目は、赤い瞳ではなく、ましてや穏やかな黒い瞳でもなく、ただただ、光のない瞳だった。

日陰にいるマダラの目は、余計に光を帯びていない様に見える。
その虚ろう瞳には、彼とは逆に、日の光を受けてやけにはっきりと映った自分がいる。


「マダラ……帰ろう、共に木の葉へ…」

「………」

「何故なにも言わない…!言わなければ…」

「お前は、」


突然口を開いたマダラは、何の感情もみえない声色で、オレに声を伝えた。


「お前は、いつも光の中にいる」

「…光…?」

「お前は、下を…影を見て歩いた事があるか」

「…どういう、意味だ…」


オレが問えば、マダラはうつ向いた。


「柱間、貴様はオレをどうしたいのだ?」


その声は実に穏やかで、今までに聞いた事もない囁きだった。


「オレは……オレはお主と共に木の葉を支えたい…オレにはお主が必要なのだ、だから…共に帰ろうマダラ…」


心からの思いを含んだオレの声を聞いたマダラが、突然笑った。
初めて見る覇気のない、けれども綺麗なその笑顔に、ただ目を奪われた。


「そうか…まったくお前は気楽な奴だな…。帰る場所がなければ、里を無断で出たオレが、お前と共になど、帰れる訳がないだろう」

「そんなことはない、オレがお主を助ける。火影の権力をここで使わずしてどうする、皆もわかってくれるさ…」

「……」

「マダラ、お主の憂いはオレが理解している。だからこそ、オレと共に里を支えようではないか。オレとお主で、うちはも千手も関係なく、多くの人々に平和を与えよう…」


そう伝えると、マダラは嘲るような笑みでオレを見た。


「…まったく…そんなだから、オレは貴様が憎くて仕方がないのだ」

「…!」

「何も失わないお前が、全てを失ったオレを理解しているなどと…戯れ言だ」

「マダラ…今なら間に合うのだ!まだお主は全てを失ったわけではない…!言葉で言わなくては誰にも伝わらん、だからこそお主はお主の思いをうちはの者に伝えなくてはならん」

「それは他人との場合だ。オレとうちは一族は同じ戦場を共にしてきた家族だ。オレはうちはを全力で守ろうとした。弟も同じだった」

「ならば、なおさら誤解を解かねば…」

「だからだ!」


マダラは声を荒げて叫んだ。


「理解するなどという問題ではない!我ら一族は、幾度も共に困難を乗り越えた!そこには強い絆が、信頼があるとオレは信じていたのだ!…だが…それは違った…っ!」

「……マダ、ラ…」


溢れていく涙が、地に落ちてゆくその姿に、ひどく胸が締め付けられた。


「誰も…オレを信じてくれなかった…!オレは…皆に信頼されていなかったのだ…誰も…オレを…っ」


オレは何も言えなかった。
たった一人になってしまった彼に、何を伝えればいい。
まだ若く、揺らいでしまうその背に、どれ程の重責を背負いて、どれ程の痛みを受けたのか…
それは想像を絶するものに違いない。
確かに、よく考えてみれば、マダラばかりが大切なものを失ってゆくのだ。


「お前たちとてそうだ…!誰もオレを信じてくれない!だからオレは火影になれなかった…!オレだって…必死に…っ…なのに、お前ばかりが選ばれる!」

「オレはお主を…!」

「オレには何もない…お前にはあるのに……オレは何も得られない。幸せも、温もりも、絆も、何も…何一つ得られないのだ…。何故オレだけが、こんなにも苦しみや、怒り、悲しみを受けなければならない…!この絶望をどうすればいいというのだ!」

「ならばオレが受け止めよう!お主と共に…オレも苦しみ、怒り、悲しみを受ける!さすればオレとお主は理解しあえるはずだ!オレは…オレはお主が欲しい!」

「黙れ!いつも望むモノを手に入れ、光ばかりを得ている貴様などに、全てがこの手をすり抜けてゆく、常闇に落とされたこのオレの心が、わかってたまるものか!」


オレを睨み付けた瞳は、憎悪と悲しみに溢れた、孤高の万華鏡写輪眼だった。


「うちはに、里に、世界に、そして千手柱間…貴様らに絶望を見せてやる!このうちはマダラを切り捨てたことを悔いるがいい…!」

「やめろマダラ!オレはお主と戦いたくは…!」


おもむろに結んだマダラの印は、口寄せの術だった。
その手が地につくと、大きな煙りと共に、九つの尾を持つ狐が現れた。


「何故お主が…九尾を…!」

「オレには見えるのだ柱間…闇に生きたオレには、この大きな闇がな」

「マダラ!」

「貴様を葬った後は里だ…ククク…」


そうマダラが言えば、九尾の尾が、突き刺すように振られた。

自身の憎悪と、九尾の強い憎悪に蝕まれたマダラを、オレは止めようとした。
しかし、相手が相手。気を抜けば、オレ自身が危ない状況だった。


「くっ!」

「どうした柱間…防戦一方か?それではオレを殺せはしないぞ」

「殺しなどせん!オレはお主を連れ帰る!どんな事をしてもだ!」



それから長い戦いが始まった。
互いに全力を尽くし、ようやく荒れ狂った地は静かになった。
凄まじい戦いで、辺りの森は消え、大地は断裂し崖となり、多くの炎が暴れるのを防ぐように、溢れる水が滝となって流れた。


「はぁっ…くっ、マダラ…!」

「うっ…ぐ…っ」

「はぁっ、はぁっ…オレはお主を…連れ、帰る…!」

「っ…何故だ…何故そこまで…。オレは貴様を…殺そうとしているというのに…」

「仲間だからだ!!マダラ…!オレにとってお主は、大切な存在なのだ…!」


荒い息をしながら、オレの声を聞いたマダラは、ピクリと揺れた。
うつ向き、口元に綺麗な弧を描くと、口を開いた。


「貴様はオレが欲しいと言っていたな…」

「ああ…、オレはお主が欲しい…マダラ、お主が…」

「…クク…ならば、意地でも貴様になどくれてやるものか…」


おもむろに刀を掴んだマダラは、刃を自分に向くように持ち直した。


「マダ…ラ…?…何を…するつもりだ…」


勝ち誇った目で、オレを見たマダラは、次の瞬間には刀を自らに突き刺した。
あまりの出来事に息が止まり、身体は戦いの疲労と傷に、思うように動かない。



「マダ、ラ…!!何をして…!くっ…」


不敵に微笑んだマダラは、口元から血を伝わせながら、息も途絶えなかすれた声で、オレの鼓膜から脳までを揺らす音色で囁いた。


「これ、で…少しは…失う事が…絶望がどういうものか…理解、できたか…?」

「あ…ああ…っ…あああぁ…!マ、ダラ…!マダラァ!」

「ククク…これで、いい…これ…で、オレ…は…!」


刀を突き刺し、ぐらりと揺れたマダラの身体は、そのまま崖下へと落ちていった。

オレは必死に地を這い、マダラの落ちた崖下を見た。
その滝壺は、まるで闇のように暗く、吸い込まれそうだった。

その後、オレは駆けつけた扉間率いる部隊に、里に運ばれた。
オレは扉間にマダラを探すように言ったが、結局マダラは見つからなかった。

マダラが使っていた武器も、その衣類も、身体も。マダラの遺品は、何一つ発見出来なかったのだ。

マダラの歴史は、おそらく扉間と過ぎ行く時間によって消されてしまうだろう。
何一つマダラの軌跡がなくなってしまう前に、オレは、最期のマダラとの記憶の場所を、『終末の谷』と名付け、そこに像を建てた。




あれから半年経った今でも、救えなかったあの日の記憶は、いつまでも脳内を駆け巡る。


夜毎、マダラが堕ちていく姿が瞼の裏の闇を染めた。
その度、うなされ、叫んだ自らの声に目が覚める。
妻のミトが心配しながら、オレの手を握っていてくれたが、いつしか身体の感覚がなくなった。

右も左も、前も後ろも解らない。心が身体から離れていったような感覚。




「 マ ダ ラ 」



『…共に帰ろう』

…ミトがオレを抱きしめてくれたような気がした。

オレの声は、今もお主の心に届いただろうか…





※※※※※
わかりにくいですが、柱間様はラスト鬱病になりました…
『共に帰ろう』はもう声になっていません。口パクなんです。
そしてお亡くなりになりました。

マダラさんの微笑みと囁きが、呪いみたいなことになってしまった(笑)

ダンゾウのところで二代目が出てきましたが、扉間様が思いの外に若かったので、柱間様の亡くなった年齢が気なり、
最強の柱間様が敵に殺られるわけがないとの勝手な解釈で妄想を書いてしまいました←

因みにこの戦いはナルトとサスケの戦いをなぞって書きました。
マダラさんの言葉で、サスケはオレに似ている的な解釈で書いてしまいましたw
お目汚しすみませんんんっ







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