光の消失










そうやって消えていく。
誰が悲しむかなんて考えもせずに。









何故なのだろう。
大切なものはいつだって守れてきた。



オレを信じて着いてきてくれた一族。
オレの平和への思いに応え、支持してくれた人々。
そして、オレを全力で支えてくれた、実弟である扉間。


皆守れた。大切な彼らを、オレは守れたのだ。


それなのに…、



「…どうしてお主だけ…、守れもせず、救うことも出来ないのだ…」




いつからだろう。
マダラをここまで思うようになったのは。

思えばマダラと初めて出会ったあの日、あの瞬間この身体で感じた全てを、オレは忘れはしない。






あの頃、オレは千手一族の頭領になれど、未だ、忍という存在意義を探し、ただただ戦う日々を過ごしていた。


繰り返される悲劇。
弾ける血肉と忌むべき殺生の所業。


時は既に忍一族間の力の序列が定まり始めていた。
それなのに、どうしてか戦いは終わらない。
退かぬ相手は己の誇りを掛けて命を掛ける。
中には、金をはたいて雇っているのだからと大名達に脅され、負ければ帰るべき場所はないと言う者もいた。


忍は退けぬのだ。
まるで物のように買われる命。
だからそれを否定するために誇りを掛けて戦う者が現れる。


終わりなき欲望と憎しみ、そして咽ぶような悲しみの渦中。
その戦国という世界に、忍だけでなく、多くの者が絶望を見ていた。


そんな中に突如現れたのがマダラが率いるうちは一族だった。

我らが千手から見れば、以前のうちはは特に他と変わらぬ一族に過ぎなかった。
だが、マダラが率いてからのうちは一族はまるで違った。彼らは鬼神の如く強かったのだ。


今までに類を見ない統率力。
他と比べられぬ程の高度な忍術と威力。
そして一族をまとめ上げる若い頭領、マダラの異端的な戦い方。


彼は今までの忍世界のあり方に波を立て、革命を起こしたのだ。

異端と言われた理由は戦いの最中にある。マダラは微かな勝敗の優劣を嗅ぎ分け、その一声で一族が風のように一斉に退くのだ。

攻め時も退き時も、それらを瞬時に感知して実行する。

攻めれば完膚なきまでに攻め滅ぼし、退けば追い付けぬ程の守りを敷く。

それは誇りの為に命を捨てる忍世界では、実に異様な戦い方だった。
マダラのする、己達の命を優先にする戦い方は、今まで勝てぬ相手に命を捨てて戦っていた者達に、『生きる』という選択肢と『退く』という行動を起こす勇気与えた。

そして何よりマダラは、大名からの依頼を選別するのだ。
今までは物申す事すら出来なかった忍が、大名に声を上げ、事によれば斬り捨てるという。

これがどれ程の忍や大名を震撼させたことか言わずとも分かることだった。


風の噂に聞けば、彼は人の皮を被った鬼であり、赤い眼に射ぬかれれば死ぬなどと実に末恐ろしい話ばかりだった。


そんなマダラ率いる一族と、当時既に戦国最強と謳われていた我らが千手一族があいまみえるのは時間の問題だった。

そしてその時はすぐにやってくる。



あの時は一体どれ程の猛々しい大男がやってくるのかと、心中穏やかではなかった。

しかしいざ目前に現れた男は、己の想像を覆すかの様に実に華奢で、自分よりも幾分か背も小さかった。
対峙したマダラを見れば、緊張をしているのか表情は強張り、震えているその様はまるで、初陣の者のように見えた。

そんな彼を見て、正直、拍子抜けしたのは言うまでもない。
噂がどれ程不確かな話であるか、という事を改めて認識したくらいだった。


「貴様がうちはマダラか?」

「…ああ、そうだ」

「噂には聞いていたが、だいぶ想像と違うな…」


言いながら見定めるように眺めていれば、彼は鼻で笑った。


「フン、噂か。ならば千手柱間、アンタは噂通りというところだな。今まで戦った奴らは、少なくともそんな笑みは浮かべなかった…。余裕とでも言いたそうだな」

「それはちと違う。戦いの中にあって奢りは死に繋がるもの。これは貴様があまりに震えているのでな…、己の初陣の時を思い出していただけのことよ…ハハハ」


なんともおかしかった。
この小柄な男が鬼神と恐れられている男だという事実が。

オレの笑い声にピクリと反応したマダラは、凛とした声で言葉を放った。


「これは恐れからなる震えではない。この震えはようやくオレの真の実力を出せる相手までたどり着けた喜びだ」

「喜び…?」

「そうだ…。…オレは最強と言われるアンタと戦い、そして勝つ事をずっと夢見てきたんだ」


そう噛み締めるように言い終えると、彼の血のような赤い目が輝いた。
その途端、不思議な感覚に襲われた。
己の瞳とは違う赤い目が。恐ろしいと噂されているその目が、何故だか美しいと感じたのだ。

戦は数え切れない程に経験した。そして対峙した者は皆、例外なく生気のない瞳をしていた。
だからだろうか。彼の生き生きとした瞳を美しいと感じたのは。




「下克上…というやつか」

「…オレは今までアンタが戦ってきた下等な忍供とはわけが違うぞ」

「ほう…」

「その証を見せてやる、千手柱間…!全力で貴様を叩き潰す!」


そう言うが早いか、凄まじい殺気を放ち弾丸の様に向かってくる赤い眼。

そしてその瞳の輝きは、まるでこの戦いを、忌むべき命のやり取りを心から待っていたかのように一層光った。



「(ああ、そうかこれが…)」



オレは瞬時に、これが鬼と錯覚してしまう程の殺気と、射ぬかれれば死ぬという赤い眼だと理解した。

戦いをどこかで楽しんでいるように見える瞳は、確かに鬼神と感じてもおかしくはなかった。


その後は正に激闘という言葉が合う。
毛先程も油断をすれば、命はない。

だが不思議なことに、恐怖や悲しみはなく、オレはただただ歓喜に包まれていた。


純粋な戦い。

命のやりとりなのに、なんの気兼ねもない。
自分が勝てば相手の立場はどうなるとか、負ければ一族はどうなるかなどという不安や雑念が一切ないのだ。
本能で刃を交わし、互いの力をぶつけ合う。ただそれだけだった。


そうしてあの時はなんとかオレの勝利で終わったが、この戦いでオレの世界の見え方が変わった。
白黒の悲しい世界に、ただ一人鮮明に色輝く存在として現れたマダラ。
その一点から、まるで光が溶けていくように、鮮やかな色彩が浮かび上がってくるような感覚。






その戦いからだった。
常にうちは一族を意識し、マダラを意識したのは。


殺し合いではなく、ただ対等に力を競い合えるマダラという好敵手が現れたことに、オレは心から歓喜した。

そしてマダラが自分に憧憬の念を抱いていると知った時は嬉しかった。

逆にマダラが自分に劣等感を感じ憎んでいると知った時は悲しかった。

そうして、マダラが自分に追い付こうと、懸命に努力している姿が愛らしくて堪らなかった。




オレは…



マダラが
  愛しかったのだ――……







ずっと側にいて欲しかった。

本当は、彼が何よりも一族の事を強く思い、そのために尽力している姿が気にくわなかった。
オレを好敵手と言った彼の心の中に、一番強く影響し、大きな存在として有りたかった。
その心地好い憧憬の眼差しを奪われたくなかった。
オレ以外に気が反れているマダラを、自分の物だけにしたかった。

だから、マダラが火影になる事を頑なに拒否し、その座を譲らなかった。
譲ってしまえば、オレとマダラの関係が消えてしまう様な気がして堪らなかった。


だが結果はどうだろう。
彼は今、己の側にいるだろうか。
否、近くどころか、ますますこの手が届かない処へマダラは行ってしまった。


この両手に包み込んでずっと離したくないのに、すでにオレはお主に触れることすら叶わない。





嗚呼、すり抜けてゆく。
この両腕から、大切な光の中から君だけが堕ちてゆく。

眠ったように瞼を閉じ、ただ無慈悲に闇の中に吸い込まれてゆくのだ。


それはまるで、この涙が落ちるのを止められないように。哀しく、ひっそりと、滑り落ちてゆくのだ。




ふとマダラの笑った顔が瞼に映った。





『柱間、お前、いつの間にかオレの呼び方をお主に変えたな――……』









「マダ、ラ……」






――――嗚呼、もう君はいない。











※※※※※※※※※

ちょっと加筆どころか、だいぶ長文になってしまったorz


この場面は分かりづらいですが、終末の谷からすぐあたりです。
柱間様の斑さんに寄せる特別な感情。
過去の出会いやそれらを踏まえて、『優しい平和主義の良い人』という柱間様の、斑さんだけに向ける妙に人間じみたというか…腹黒というか…独占欲的な黒い部分を書きたかったわけです←

心の底から本当に望んだ事が、どうしてか叶わない。近づこうとすればするだけ遠ざかる。でもそれは自分ではどうしようも出来ない運命。

そんなもどかしさと切なさが出てたら幸いです(笑)

そして最後に、柱間様の『お主』呼びが、斑さんにとっては認められたみたいで嬉しかったので笑った的な事をラストに書きたかったのに、よくわからないことになったので、この設定を脳内補充しつつ生暖かい目で見てやってください。
ううっ、撃沈orz

もうなんかいろいろすみませんでした…っ












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