バレンタイン





ほんの昔、世が戦国時代と言われていた頃、甘味は当たり前に小豆から作る餡が主流だった。

時には大豆から精製したきな粉なる甘味が存在していたが、今現在のように、オレの目前にあるチョコレート等と言うものは見たことがなかった。

オレ自体、さほど甘味を食べたい、という欲が出ないのもあるだろうが、一重に、ほんの僅かでもあの頃より平和になったという事実から、こんな日を迎える事が出来たのだと思う。


「兄者もずいぶん女達から貰ったようだな」

「ん?…おお、扉間ではないか。そういえば、先程娘らがお主を探しておったぞ。もう会ったか?」

「ああ、今さっきすれ違い様にな。…その、兄者、少し席を空けたいんだが…」

「お、さては扉間、例の者のところか?」

「っ、ああ…、ちょっと呼ばれていて…」


頬を赤らめ俯く扉間。
最近知ったが、扉間には想い人がいるらしい。
しかも、ようやく扉間の想いが相手方に通じそうなのだと桃華から聞いた。
これは兄として弟の背中を押さない訳にはいくまいと思い、茶をオレに運んで来た弟の肩を叩いて微笑むと、オレは力強く扉間を送り出した。


「巧くいくと良いのだが…しっかりな、扉間…」


地を駆けて行く扉間を、火影室の窓から目を細めて見て、呟いた。

なんともほのぼのしい光景。
降り注ぐ日の光が、里を照らし、まるで全てが平和に見える穏やかな景色。

そこに見えた黒い服に身を包み、独特に荒々しく跳ねた黒髪の者の姿。
見間違うはずもなかった。


「マダラ…!」


最近では、うちは一族内で揉め事が起こり、話しではマダラを長の座から外そうとする者の一派が存在するらしい。
その為か、マダラは家にもいないし、ましてや外でも見かけなかったのだ。

久方ぶりのマダラの姿に、オレはあろうことか、見失う訳にはいくまいと窓から飛び出していた。
そんな自分に思わず苦笑してしまう。



ふと物陰でマダラが見えなくなり、先程彼がいた場所に着くと完璧にマダラを見失っていた。


「………」


辺りを見回していると、突然屋根から飛び降りて来たオレに驚いていた里の者達が、口々に声をかけてきた。

そんな人々に応えながら、オレはマダラの行方を尋ねれば、人々は林の方へ歩いて行ったと教えてくれた。

礼を告げ、急いで林の方へ走って行けば、遥か彼方の丘に生えた木に背を預けながら団子を食っているマダラを発見した。


「はぁ…はぁ…マダラ…っ」

「!……柱間…」


息をきらせてマダラの背後に飛び出れば、至極驚いた瞳でオレを見たマダラ。
だがその瞳は、次第に面倒なものを見る目付きになっていく。


「久しぶりだな…マダラよ…はぁ…はぁ…」

「…貴様はハエか、柱間。…オレに何の用だ、用がないのなら付きまとうな」

「ははは、酷い言われようだ…しかしマダラよ、お主元気にしておったか?最近見かけんものだから心配したのだぞ?」

「お前に心配などされる筋合いはない」

「相も変わらず冷たいな、お主は…まあそう邪魔者扱いするなマダラ…オレはお主と話しがしたい」

「知らん、帰れ。お前の話しに、ろくな話しなどないことは知っている、このハゲら間が」

「ハゲら間とはまた…、オレはまだ禿げておらんぞ」

「フン…」


団子を食べながらそっぽを向くマダラ。
そんなマダラのすぐ隣に腰をおろして座れば、マダラが移動してまた距離を空けられた。


「……マダラ…」

「…」


ふと、突然扉間を思い出す。
今朝方会いに行ったが、あれから彼奴は巧くいっただろうか…。などと考えたが、よく考えると実際オレの方がまったくダメな状況だと思うと、苦笑しか出来なかった。


「……おお、そうだ!マダラ、お主、その…オレに何か渡す物はないか?」

「は?」


もちゃもちゃと団子を食べているマダラが振り向き、必然的に目が合うのだが、マダラの怪訝そうな冷たい視線に、心が折れる。


「…うっ…そんな目で見ないでくれマダラ…。今日はバレンタインという日でな…男は…その…想いを込めたチョコレートをだな…貰う日らしいのだ…」

「…それで、何故オレがお前に渡す物があると思うんだ、あるわけないだろう、気持ち悪い」

「うっ!気持ち悪い…っ、…ないのかマダラよ…オレにないのか…寂しいではないか…」


膝を抱えてうずくまると、マダラは更に蔑んだ眼差しを向けてくる。
いや、実際はどうか分からないが、どうもひしひしと感じる視線がそう物語っているような気がしてならない。

すると、突然マダラの視線を感じなくなった。
まさかまた何処かへ行ってしまったのかと思い、直ぐに顔をあげるとマダラは俯いていた。


「……」

「?」


どうしたものかと、俯いているマダラの顔を覗き込む。
すると、マダラは顔を俯けたまま、持っていた団子の袋をオレの目前に突き出した。


「…ん」

「…?」

「ん!」

「団子の袋がどうし…、っ!?」


突然マダラから団子の袋を胸の辺りに押し付けられたかと思えば、風のように走り去って行くマダラ。


「な、マダラ!待ってくれ…!お主今何処に寝泊まりして…っ!」


声を上げたが、ほんの数秒もかからないうちにマダラは見えなくなってしまった。

複雑な思いでマダラが消えた林を見た後、押し付けられた団子の袋を見てみたが、そこには大量の串が入っているだけだった。


「……」


あまりのショックで粉々になった心を落ち着かせようと、横になる。
すると、口を開けたままの団子の袋から大量の串がオレの顔面に向かって降ってきた。


「………はぁ…」


ため息をついて袋の中に串を戻そうとすると、小さな包みとカードが袋の中にあった。


「!まさか…!」


急いで取り出すと、カードには実に美しい字で『柱間へ』という文字が書いてあり、小さな包みには、これまた小さなおはぎが包まれていた。


そしてオレが悶えて丘から転げ落ちて行ったのは言うまでもなかった。







※※※※※※※※※

反省点がありすぎるorz
とりあえずバレンタインネタ^^

おはぎはマダラさんの手作りです(笑)
チョコレートばかりのバレンタインですがマダラさんだけはおはぎという(笑)
と言うか、自分で作れるのがおはぎしかな(ry

柱間様は相変わらず←

因みに『ん!』って押し付けるシーンは、某映画の男の子のアレです(笑)




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