「ああああ…足がしんどい」 「うるせぇぞキャロット」 ひどい男だ。 こんな事になったのはこの男のせいなのに。 「…てめぇ今オレのせいとか思ってやがったな」 「マジかよ!何で心の声がわかるんだ!」 「顔がいちいち物語ってるからな」 「何おぅ?!この世界一のポーカーフェイスな私に何を言うか!」 「どこがだ。表情豊か過ぎて既に顔面からだだ漏れてんじゃねぇか。漏れ出るとかだらしねぇ。なんか汚ねぇ。どうにかしろ」 「この野郎おおお!人の表情なんだと思ってんだあああ!」 そう、ここはとある酒蔵の煙突内。 何故こんな所に居るかと言うと、ことの発端はあのシェリーがジンの車に盗聴器やらを仕掛けた所から始まったらしい。 今回の仕事では、ピスコがある人物を一人消す予定だったのだが、そこに裏切り者のシェリーが来るとかなんやらで、ピスコは急遽シェリーも消す事になった、と聞いた。 そんな中、たまたま近くで仕事をしていて、たまたまタイミング良く帰ろうとしてた私をジンが見つけたのだ。 というより確実に待ち伏せだったと思う。 やっと来たか、とか言ってたからたぶん間違いない。 因みにウォッカは、携帯でピスコと話しているジンの隣で何やらポルシェを熱心に調べてた。 そのままジンに引きずられる形で、私達三人はピスコが居るであろう酒蔵に行ったのだけれど、肝心のピスコが居ない。 しょうがないから一旦引き上げるのかと思ったら、何故かジンの先導で屋上に出ることに。 屋上に出たら出たで、やっぱり雪が降ってて寒いのなんの。 なんとかこの寒さを抑えようと、ジンとウォッカの間に挟まったり、ウォッカを雪除けにしたり、ウォッカを風除けにしたり、ウォッカの上着を奪ったりして防寒したら、何故かジンが不機嫌になった。 仕方ないからジンのコートに包まったりして寒さを紛らわせてたら、まさかの煙突からシェリー登場。 その時私は、シェリーに拳銃を向けるジンの足の間にしゃがんでたわけで。シェリーと目が合った時はとても気まずかった。 そしたらなんかジンがシェリーを虐めるわ、突然自分の肩を撃ち抜くわ、屋上の入り口から知らない男の声はするわ、シェリーは煙突から下に落ちるわで唐突に目まぐるしく状況が変わっていく。 一体何なんだと思っていたら、ジンにこっちに来いと言われて、着いて行ったら煙突から落ちるハメに。 そのまま下に降りたらそこに居たのはピスコ。 残念ながらピスコは失態を犯したせいで、何故か炎に包まれている酒蔵で、ジンに消されてしまった。 そうして酒蔵を出ようとしたら扉まで燃えていて出られないから煙突を登る事に。 そして冒頭である。 「急げキャロット、サツに嗅ぎつけられたら面倒だ」 「こ、これでも頑張ってるよ…!てかジンちゃんが先に出て私を引き上げたら良かったじゃん」 「……てめぇ一人下に置いて行けるか馬鹿女」 私の下を登ってるジンが、何かもうボソボソと臭いセリフを言ったので動揺して手が滑った。 「あ、ごめん」 「なっ、おい馬鹿!おまっ…」 そのままジンを道連れに下に落ちる。 すんごい音がしたけど、ジンに抱き込まれたので私は痛くなかった。 でも本当にすんごい音だったから、下敷きになってくれたジンを抱きしめて、痛いとこ飛んでけ方式で撫でくり回す。 「ごめん…!だ、大丈夫?!」 「…っ、」 「ごめんね、ごめんね…!ジンちゃんごめんね…!痛かったでしょ…!骨とか折れてたらどうしよう!」 「…構うな。お前は…どこも痛くねぇか」 ジンに言われて身体を確認したけれど、彼が下敷きになってくれたので怪我などする筈もなく、私はお礼と共に痛みが無い事を告げた。 そしたら、そうか、とだけ言われて、強く抱きしめられた。 「…ジンちゃん…?やっぱり痛む…?」 「…多少はな…、てめぇはこのまま大人しくしてろ、ウォッカに引き上げさせる」 そう言いながら上に乗ってる私の胸に顔を埋めて、ぐっ、とか呻くから、余計に心配になってジンの頭を撫でた。 「これ頭打ったせいで、もっと馬鹿になってたらどうしよう…!」 「ああ?おいてめぇ今何て言った」 〜一見すると災難〜 それでもそう感じないのはお前のせい。 ****** 好きな女と仕事デートして、好きな女と雪の中でじゃれついて、好きな女と薄暗い狭い場所で二人きりになって、好きな女の尻を下から拝見して、痛い目にあったけど好きな女が自分の腕にダイブしてきて、好きな女にものすごく抱きしめられて、好きな女にたくさんボディタッチされて、好きな女がいい感じに自分の上に乗ってていい眺めで、好きな女の胸に合法的に顔を埋められるとか、お前いい加減にしろ。 炎先輩、煙先輩、あいつらどうにかしてください。ピスコ一生のお願いだから。 これ題名が決まらなくて、四日間はお蔵入りしてた。いい加減にしろ。 |