好きな人に見てもらえない。 それは、話せないとか、そういう事も重なり合っての結果だけども。 ここまで、そう上手くいかないものかと思った。 恋、というより、憧れに近いのだろうか。 考えとしては、あんな風に仕事が出来る様になりたい、が一番強い。 けれども、その隣で、その側で見ていたいとか、その時間や空間を共有していたいと思うのもまた事実である。 「ジン先輩、おはようございます」 私の挨拶に、ジン先輩は声どころか目線すらくれなかった。 それでもめげない。何故なら今日は漸く念願叶ったジン先輩達との合同の取引の仕事。 実際に表立って取引をするのはジン先輩とウォッカ先輩であり、その後直ぐに相手に渡した金を奪う為に、敵方を全員射るのだ。 そのスナイパー役として、キャンティ先輩とコルン先輩と私の三人が出る事になった。 実際、ジン先輩は三人も必要ない、と私を外そうとしていたけど、実践経験を積みたいという名目で声を挙げる事で、何とか居座れた。 これで先輩と一緒に仕事ができる。 そう思うと、嬉しくて仕方がなかった。 ーーー…… ーーーーー…… 深夜1時少し前。 辺りは静まり返った工場の中で、静かに取引の時間が来るのを待つ。 私も、キャンティ先輩もコルン先輩も、ただ静かにそれぞれの場所から、その時を待ち、私は緊張を解こうとスコープを覗いていた。 「ジン先輩が見える…」 取引時間が迫る中、ジン先輩とウォッカ先輩が二人、話をしているのが見えた。 流石に読心術なんて心得ていないし、唇の動きだけでは何を話しているかまでは、わからない。 それでも一瞬、スコープから見たジン先輩の笑みは逃さなかった。 あのジン先輩が笑ったのだ。 鼻で笑う、嘲るような笑みではあったけれど、私の中では貴重な瞬間だった。 そしてとうとう取引相手が来た。 滞りなく取引をして、ジン先輩がベレッタを相手に向けた。射撃の合図が出される。 その瞬間、次々と相手が倒れてゆく。 キャンティ先輩とコルン先輩、それにジン先輩もウォッカ先輩も銃撃戦を繰り広げるわけだから、本当にあっという間だった。 私はというと、一度も射撃せずに終わってしまった。 仕事が終わり、決めていた集合場所へ来てから私は頭を下げた。 「すみません…早すぎて追いつけませんでした…」 「キャハハ、獲物は早い者勝ちってやつさ。もっと積極的に来なきゃ撃てやしないよ」 キャンティ先輩が笑いながら、でも次は譲ってあげる、なんて優しい言葉をかけてくれた。 でもジン先輩は何も言ってはくれなかった。 それどころか、その後は一言も話せなかった。 お礼や謝罪をしたけれど、それでも何も言ってはくれなかった。 そしてそれ以降、仕事もなかなか一緒に行くことが出来ない。 なんとかしてチャンスを、と思い、早朝にジン先輩のお出迎えをしたり、ジン先輩の行きつけの店を探っては、こっそり行ってみたり等をしているけれど、なかなか進まない。 「…なので、何かアドバイスを下さいキャロット先輩!私はジン先輩とキャロット先輩みたいにもっと親しくなりたいんです…!」 「そ、そうなんだ。と言うかもう君、絶対ジンちゃんの事好きだよね。憧れとかじゃなくて好きだよね、もう彼女になりたいとか思ってる感じだよね」 「はい!」 「認めんのかよ!なんてこった!昨日はアイツから相談受けたのに…!」 〜視点を変えれば〜 ストーカー。 ****** 最初は夢主視点でしたが、誰得だよってなったので、名すら出てこない後輩視点になりました。 アピールも度が過ぎればそういう加害者になり得るし、好きじゃない人からここまでやられれば迷惑だし鬱陶しいしで、とにかく恋って難しいねっていう話しです。あと冷たいジンを書きたかった(遠い目) 因みに上手く書き切れなかった余談情報として、ジンは夢主にストーカー女がいて困ってる的な相談をしています。 |