恋の味








「ぬァわーらくすわーん」

「………」


結界を張り、更には毒気で溢れている城内。

そんな物騒な場所のはずなのに、似つかわしくない声が響く。


「ぬわーらくとぅあーん」


遠くの廊下で聞こえている声は、だんだんと此方に近づいてくる。
その気配に心中で溜め息を吐いていると、近くにいた神楽が声をかけてきた。


「おい奈落、またあの女が来たみたいだけど、一体何なんだい?」

「わしが知るか」

「いいのかよ…出入り自由じゃねぇか。…アンタにしちゃあ無用心だねぇ」

「………」

「まあいいか。アタシはアタシで自由にやらせてもらうよ」


そう神楽は言うと、部屋を出て行った。
このまま神楽を自由に城外に出すのは少し気が進まないが、何より今は己の場所に向かって来ているあの女をどうにかしなければならない。

さて、どうしてやろうか…


「ぬわーらく……あ、奈落さん!ここにいる気がする!失礼しまーす!」

「………」


やたらと響く声が目の前までやって来たかと思えば、障子を遠慮なしに豪快に開ける女。


「あーっ、やっぱりいた!なんで返事しないのよ、もー!それより奈落さん、元気にしてた?1日ぶりだね!」

「…」


ここ最近、だいたい二月ほど前頃から突然やって来るようになったこの女、貴女。

毎度、どうでもいい事で突然押し掛けて来ては、長々と居すわっていく。

おかげさまで、身体の組み換えをしているところを目撃されて、自分が半妖だということがバレた。


「ねー、奈落聞いてるー?」

「貴女…何をしに来た」

「え?何しに来たって…あのねあのね、よもぎ餅作ったから持ってきたのですよ!はい、どうぞ!」

「……いらん」

「さあ召し上がれ!食べてみて!」

「いらん」

「もー、召し上がれってば!」


断っているのにも関わらず(毎度の事だが)しつこく食い下がる貴女。
そしていつも通りに溜め息を吐いて、女の方を見れば、やはりいつも通りの光景が広がっている。


「…貴様、またしてもこの奈落に矢を向けるか」

「だ、だって…!奈落が冷たいから…せっかく奈落のために作ったのに…」

「貴様、愛い事を言うわりに、しっかりとわしに向けて破魔の矢を引いているではないか」


そうこの女、貴女は浄化の力…つまり破魔の力を持った巫女なのだ。
しかも、この奈落が張った結界を物ともせずに破り、城の毒気やらを浄化しながらここまでやって来るという、なんとも強力な巫女なのである。


「だって!…じゃあ食べてくださいな、奈落さん」

「……」


黙っていると、貴女は矢を背に戻して、よもぎ餅を近くまで持って来る。
その様子を目で追いながら、再び心中で溜め息を吐く。


「お願い、心を込めて作ったの…一口でいいから食べて」

「……」


目の前で小首を傾げ、四つん這いの格好で、上目遣い気味に覗き来んでくる女。
自分は(人間、妖怪を含め、今最も旬で危険な)邪妖であり、貴女は巫女なのである。

まったく、巫女としての自責やら立場やらを無視する貴女に、その辺の人間よりもこっちが嘆きたい。
力を持っていなければすぐにでも(始末という意味合いで)追い出せたものを、そうもいかない程の霊力を持っているから、どうしようも出来ない。
そうして気付くと、いつの間にかこんな状況になってしまっていたのだ。


「…まったく、かごめや桔梗より厄介な奴だ」

「ねぇお願い…食べてよ奈落。ほら…、あーん」

「……はぁ…」


能天気な貴女に、おもいっきり溜め息を吐くと、口によもぎ餅を押し込まれる。


「ぅぐ………」

「美味しい?」

「…………貴様、わしにこんな事をしてただで済むと思っているのか」

「うん、済むと思ってる。ねぇそれより…美味しい?もしかして…、不味かった…?」

「………」


ここまでこの奈落の話を聞き流されると、ある意味貴重な体験をしているように感じてしまう。
未だ己からの返答を不安げに待ち、じっと自分を見つめて来る女に、嫌がらせをしてやろうと思い立つ。


「甘過ぎる…余計な餡を入れたか」

「え…っ」


まさかのダメ出しに、予想通り困惑している貴女。そんな女に、ニヤリと不敵に笑うと、貴女は顔を赤くして、バッと下を向いた。

そして貴女は性懲りもなく、再びよもぎ餅を震える手で恐る恐る口元に持って来た。


「あ…、あーん…っ」

「もぐ…」


何も言わずよもぎ餅を食べれば、再びバッと赤い顔を上げて、じっと見てくる貴女。
そんな貴女を、餅を食べながら一切目を離さず見てやると、またも赤い顔を下に向けて、今度は小さな声でうわぁ…と漏らした。


「…どうした貴女、わしをまともに見れんのか?くく…もしや傷ついたか…?」


意地悪くニヤニヤと笑いながら女を見れば、「本当に甘い?」などと聞かれた。
追い打ちで意地悪してやろうと、再び、餡が甘いと言えば、未だ顔が赤い貴女はぺたりと座り、衝撃的な言葉を言った。






〜恋の味〜




「よ、よもぎ餅…餡入れてないよ」

「!」

「私もだと…思うけど。な、奈落…さっきから顔真っ赤…っ」

「!?」





※※※※※※※※

とりあえず酷い口調すみませんorz
奈落に感じないという程のキャラ崩壊w

奈落さんは自分の恋心に気付いてなかったという(笑)
よもぎが甘いと錯覚する程の、甘い甘い恋の味です←

赤面状態で、中盤からずっと夢主に自信満々でやってのけていた奈落さんに拍手を!
実は夢主の可愛い「あーん」にやられていた奈落さんでした(笑)





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