黒猫と革紐。 | ナノ


続・ギルバート君の日記《ALL》



▲月1日

夕方、久しぶりにアパートの部屋に帰ると引き出しに常備してあった煙草が消えていた。
まだかなりあった筈なんだが、どうしたのだろう。



▲月2日

パンドラに再び戻る。

あてがわれた部屋に入り、チェストを探すとまたもや煙草が消えていた。一体何なんだ。
仕方なく残り少ない煙草をポケットから出して吸っていると、今度は部屋の外側から舌打ちする音と「まだ残ってたのか」と声がした。

……嫌な予感が的中した。



▲月3日

予想通り朝起きると上着のポケットにあった煙草すら消えていた。
オズ達と合流するため朝食に向かうとやけに上機嫌なオズ。犯人は確定した。



▲月4日

仕方なく外に買いに出ようと思い立つと小銭が消えていた。わざわざ市場で大きい額を卸すのも面倒なので今日の所は諦める。

よくよく思い出してみればこの前、オズに煙草の危険性について小一時間程説教された気がする。
アパートで食事を作りながらだったから聞き流していたが、確かその中で「煙草が無くなったら考える」みたいな事を言ってしまっていた。
言葉のあやというか生返事に近かったのだが、とうとうオズを本気にさせてしまったらしい。



▲月7日

落ち着かない。口寂しい……。

ブレイクにすら同情されて飴を一缶もらった。
初めてあいつにまともに感謝した瞬間かもしれない。



▲月9日

口寂しいを通り越して何だか苛々してきた。
二度目の禁煙は一週間でギブアップしたが、今回はそうもいかないようだ。

……手が震えてきた。



▲月12日

煙草の代わりに飴とハッカを噛んで過ごすこと五日。
相変わらず煙草は手に入らない。
心なしかパンドラの愛煙家達の姿も見えないようだ、と思ったら肩を寄せ合うように隠れて吸っていた。
しかし一本分けてもらおうとすると皆顔を真っ青にして逃げてしまう。

まるでオレの後ろに何か居たような顔だったがどうしたのだろう。



▲月15日

ブレイクに追加の飴を貰った。
既に耐え切れず自分で飴を買ったのは言わないでおいた。

そろそろ限界かもしれない。



▲月16日

屋敷の片隅でオズとこの前の愛煙家達の姿を見た。何やら不穏な様子。
禁煙というワードが端々に出ていたのは気の所為だと思いたい。



▲月17日

オスカー様に会った。

大変だがまあお前の為だ、と肩を叩かれた時に不覚にも泣きそうになった。
……しかし煙草はくれないようだ。



▲月18日

煙草との別れから二週と四日。
もう限界だと感じ市場への逃亡を決意した。

だが、釣りが面倒になっても構わないと金貨を握り締めたところで突然の悪寒に襲われる。
お使いならオレに任せろよ、という心遣い溢れた言葉にあれほど恐怖を感じたことはない。

結局飴とハッカを頼んだ。



▲月20日

幻覚が見える。
白い煙とあの紙の手触り……

空想に耽っていたら周りから気の毒そうな視線を感じた。



▲月23日

ふとした時に口元に手が伸びる。

はっとして手を戻すこと十数回。



▲月25日

ブレイクにたまには外に出ましょうと街に誘われた。
最近中に籠もりがちなのもあるし素直に頷きたかったが、外であのパッケージを見る度に禁断症状が出そうだったので申し訳なかったが断った。
このところ食欲もない……

煙草と縁を切っただけで他の色々な物とも縁が切れてしまった気がする……



▲月26日

外にやたら綺麗な蝶が羽ばたいていたのでふらふらと追い掛けてみたら信じられないといった顔をしたブレイクに肩を掴まれてふと我に返る。
よく見たら部屋の中だった。



▲月28日

オズが部屋を訪ねてきた。

かなり引いた顔でやつれたねと言われる。
しかしこの惨状でも頑として甘えを許さない辺り流石と言えるのかもしれない。

二人でしばらく会話(受け答える気力も無い為一方的に聞いていただけだが)をした後、あと二日で山越えるから頑張れよと激励される。
その山で遭難しそうに思えるのは気の所為だと思いたい。



▲月30日

一日分の記憶がない。目が覚めたらパンドラ内の医務室に寝ていた。
一昨日廊下で話し合うブレイクとオズの姿を見かけたあたりで記憶が途切れているからきっとそこで倒れたのだろう。
隣にはあまり寝ていない様子のオズとブレイクが居た。

二人と共に医者から話を聞くと、無理な禁煙でストレスがたまったのが原因だったらしい。食が細くなったのも一因だったようだ。

何事も程々にとのこと。



▲月31日

昨晩は医務室で一晩過ごした。目が覚めると枕元には懐かしいあの紙箱が。
また幻覚じゃないかと疑いつつも中を開けると、中から散々焦がれた白い紙筒と一枚の紙切れが出てきた。
煙草はブレイクからで、手紙はオズからだった。
読んでいる内に部屋に当人が訪ねて来て、しばらく二人で話し合った。

完全な禁煙はまだ無理だけれど、本数を控えるように努力することで許してもらった。


この一カ月は苦痛の連続だったが、主人の為に健康でいる事も必要だと思えるようになったのでまあ良しとしておこう。






▲月31日

ギルと話し合った。まあちょっとやりすぎたかなとは思ったけど当初の計画通り煙草の本数を減らさせることに成功。
やっぱり一度きつい締め付けをした後は多少の締め付けぐらい我慢できるものだ。

次からの成果が楽しみだ。





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