似た者同士《BG》
「はーい、嘘付きにきましたー」
「……帰れ」
ドアを閉められたなら戸棚から。
何度侵入したか分からない経路なのに阻止されないのは気が付かないのか見て見ぬ振りか。
「四月馬鹿ですヨォ。イベントの分からない人ですね君も」
無論、彼がそこまで物知らずとは思っていない。現に、既に主人から散々嘘を吐かれたのでもう付き合いたくない──くたびれた様相からはそんな事が伝わってくる。
あの少年はイベントを大切にするから、さぞ多くの嘘を吐かれたのだろう。
季節ごとに巡る催しを全力で楽しみ、また楽しませようと努力する。自分らの置かれている渇き切った環境を分かっているからこその行動は彼の伯父にそっくりだ。
「……ちゃんと気付いてあげれば良いのに」
主人の見上げた心意気を理解できないとは未熟な従者だ。
「はあ?」
「いえ、ワタクシゴト」
「………、で、嘘吐くならさっさとしろ。実は女か? 食生活を改めたか? 肉より野菜派に鞍替えか?」
「………、」
なるほど、そういう嘘を吐かれたのか。彼らの嘘は可愛らしいものばかりだ。
いや、この日の事をよく理解していると言うべきか。『人を不幸にしない』こと、『楽しい嘘をつく』こと。
馬鹿をやるにもルールは必要だ。それを破ればただの諍いの耐えない化かし合いに成り下がってしまう。それは自分も分かっているから、今日の嘘を考えるのには意外と悩んだ。
結果、思いついたのは下らない事なのだが。
「……では今日、私は君から二つ物を盗って行きマス」
「?」
四月一日のもう一つのルール。
「君から、『高揚と幸せ』を」
──この日に吐いた嘘は、今年中現実にはならないらしい。
「…はっ?」
すっとんきょうな事を言われた、そんな顔をしている。
それでいい。嘘を楽しむ事ではなく裏にあるジンクスを選んだ道化者の真意など気付かなくていいから。
(私が君から幸せも、それへの期待も奪わなくて済むように)
「意味が分からないんだが……」
眉を寄せた渋い顔。ちなみに、午後のネタばらしをするつもりは毛頭無い。
分かっているのかしばらく唸って、それから降参だと言うように彼はため息を吐いた。
「妙なことを言うなよ……」
「私らしいでしょう?」
「……それはそうだが」
諦めたようなので、挨拶をして戸棚に身体を潜り込ませる。
けれど、内側から扉を閉めようとする手がはっしと捕まれた。
「ギルバート君?」
むっと唇を尖らせた彼がその先にいる。
「言うだけ言って逃げるな。オレの嘘も聞いていけ」
「君が嘘を吐く?」
「ああ」
これは珍しい。
果たして実は女なのか、禁煙宣言か。
「いいか、オレもお前から一つ盗ってやる」
なんと、意趣返し。
「ほう? 私は何を盗まれてしまうので?」
「オレが盗るのは──」
ぐっと唇を引き結んでから、願うように吐かれる嘘。
「──『希望』だ」
「………、」
「………、」
「……パンドラの箱ですか君は」
気が抜けて呟くと、真っ赤になって目を背ける彼は悪いか、と声を大きくして私を棚から引きずりだした。
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twitterに打とうとして長すぎた四月一日ネタ。
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