黒猫と革紐。 | ナノ


敗北色のファンデーション《BG》※現パロ


朝。目が覚めると、奇怪な小瓶を握り締めて笑う恋人がいました。



「………とりあえずオレはどこから突っ込めばいい?」

「あ、起きたんですかギルバート君。オハヨーゴザイマス」

「挨拶はともかく爽やかな笑顔に似合わないその瓶は一体何なんだ」

「これですカ?」


ファンデーションですけど?


「ちなみにリキッドタイプで水にも負けません」

「……お前が新宿二丁目でバーを開きたいと言っても止める権利はオレにはないな」

「何ですかソレ。別にそういう理由で買ったんじゃありませんヨ」


まったく早とちりなんですからー、と起き上がったばかりの身体を押し倒してくる白い男。
色々な意味で朝から元気だなと思いつつも昨日の名残で身体にだるさが染み付いており、謹んでそれは遠慮させていただいた。
ベッド横に添え付けた扇風機のスイッチを入れると気の抜けた音と共に暑くも涼しくもない微妙な温度の風が顔にあたり、項にしっとりと張りついた汗の珠を引かせていく。もう夏だな、と一年で一番髪に気を遣う季節の訪れを感じ、裏起毛のふわふわしたシーツからタオルタイプのものに変わったスカイブルーのベッドに足を広げた。

上には絵の具を垂らしたターコイズ、下には向日葵が目に痛い自己主張。
恋人は相変わらず意味が分からないし、気温は無駄に高くて暑苦しい。
今日は日曜なのだからゆっくりさせてほしいのだが。


「………、」

「こら、いくら日曜だからって二度寝はないでしょう」

「寝不足は誰のせいだと思ってる」

「オールに縺れ込まないで半端な所で寝落ちた君のせい」

「お前が際限なく盛るからだろうが」


伸ばした足で背中を狙うとひょいと避けられる。背中に目でも付いているのだろうか。
一方でダブルサイズのベッド端に腰掛けている変人、もとい恋人はカウンター気味に伸ばした足を掴むと一気に下へ引きずり下ろした。

「そーれ」

「いっ?!」

どすっ、と鈍い落下音に続き、背中全体と腰に響く痛みの不協和音。
頭も打ってちかちかする視界のなか不満を漏らすと、不意に何も纏わないままの胸と腹に冷たい何かを感じる。

上に乗り上げた白い変人は手に持っていた瓶の中身を思い切り垂らしていた。


「〜っ、何がしたいんだお前は!」

「だってベッドで塗ったら肌色で汚れるじゃないですか」

「そうじゃなくて、何で人の腹に化粧なんかしてるんだ!?」


人差し指で延ばされる肌色の液体。白い肌とオークルのファンデーションは微妙に合わず、見た目は絵の具で遊んでいるようにしか思えない。
くるくると指が腹から胸を辿ってくすぐったさに身体が震え、逆に恋人は満足そうに薄い桃色の口元を綻ばせた。

「ん、良い感じに同じ色」

「だからせめて何なのか言え……」

どうして朝からこの変人の奇怪極まりない行動に付き合わされなければならないのかと疲労感を感じながら問うと、彼はむっと口を曲げて頬をつまんできた。
その口から出たのは意外な言葉。


「だって君、海に行かないって言ってたじゃないですカ」

「はあ?」

現在進行形で頬を伸ばされながらもそんな事を言ったかと記憶を反芻する。が、

結果、よく分からない。


「……?」

「だから、この傷があるから面倒だ、って」

すっと一直線に引かれた古い傷跡に指が触れる。それで、そういうことかと思い出した。
いくらか薄れて古い傷跡だが、やはり海などで水着になれば目立つものは目立つ。いちいち注目を集めるのは快くないし、過去海やプールに行かないかと誘われたときにはいつもそれを理由に断っていたのだ。
けれど、それでも自分と海に行きたかった彼はその電波受信しているとしか思えない頭で考えて結果この方法を思いついたのだろう。

「普通ファンデーション塗りたくるか?」

「…一人で行っても君が居ないとやる事がないんデス」

「この手の化粧、本当に水に浸けると大抵十分くらいで溶けてくるんだぞ」

「………、」

止まる思考。
ヴーン、と扇風機が唸るベッド横で、馬乗りになった人影。
急に可笑しくなってきて、天井を見ながら声を立てて笑った。


「お前と居るとほんと飽きないな」

「そこは素直に好きと言いなさいヨ」

「……海、行ってやる」


だからこんなもので隠さなくていいと恋人の手を取って、バランスを崩した頬にキスをした。

(水着買わないとな……)





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電波ぽいブレイクと受けっぽくないギルバート君。


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