V
act.5 ゴーストカーニバル
「綺麗だったね、カーニバル」
「うん」
帰りの馬車の中は例のカボチャから贈られた菓子と買ってきた土産、さらにカーニバルの残骸で大分賑やかになっていた。
馬車の中に残る魔女を模した風船の欠片。オレンジのキャンディチップ。それらは全て夕方に行われたカーニバルの仮装行列の名残だ。
当初の目的であったレベイユのカーニバルはハロウィンを絡めただけあってかなり幻想的で奇怪な仕上がりとなっており、夕暮れに染まった街の住人達を楽しませるのに十分なものだった。
自分らも許された時間ギリギリまで残っていたが、まだ明るい笛の音が窓から届く辺りカーニバルは今も続いているのだろう。珍しくはしゃいだ所為か答える弟の声は少し眠たげで、菓子を銜えたままこくりと頭が揺れた。
「屋敷までまだ大分あるね……ヴィンス、大丈夫?」
「う…ん……」
「………、」
ぽとり。銜えていた菓子が床に落ちる。
やれやれとため息をつきながら、もう食べられなくなってしまったそれを拾い上げた。唾液で溶けかけのロリポップからは甘ったるい匂いが漂っていて、余計にこちらの眠気を誘う。
「……帰ったら…マント、どうしようかな……」
そっと横に視線を滑らせる。
あの上司からの贈り物は軽く包み直し、隣に置かれていた。かなりきちんとした作りであったのでおそらく防寒機能は強いだろう。しかし表面の派手な飾りは下手をすると本当にこのイベント限定のものになってしまいそうで、そこが不安だった。
無理に使う必要もないが、やはり相手もしまい込まれるより使われる方が気分が良いだろう。そこまではいかなくとも、何となくしまいっ放しにしておくのは気が咎める。
(もしかしたら飾りが外せるようになってるかも……)
そんな事を考え、そっと手を触れる。
「………、」
かさりと菓子屋の包装紙を借りた表面が音を立て、気が付けばふわふわとした微睡みに飲み込まれた瞼はゆっくりと閉じようとしていた。
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