黒猫と革紐。 | ナノ



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(───そうだ。大体、こいつが毎回毎回……ッ)


そう。毎回毎回、この義兄が一つ上の兄を連れて来る為に学友達に付き合っているの何のとどうでもいい疑惑を持ち上げられるのだ。

認めたくないが、事実として上の兄らがそういう関係であるのは本当の事である。それについて自分がどうのこうのと口を出すつもりはないし、エリオットとしては男同士だろうと女同士だろうと恋愛事にそういった些末事は特に気にすべきものではないと比較的広い見解を持っている。
しかし、いくら広い見解を持っていようと物事には限界というものがあるのだ。


───それは例えば公衆の面前で食べ物を二人で分け合ったり、一つ下の弟が口に付いた欠片を舐め取ったり、挙げ句の果てにはやはり一つ下の弟がそこで無自覚な兄を襲ってコトに及ぼうとしたり、とまあ諸々。
そして公然ワイセツ罪に及ぶ前に毎回学友達の情報網を駆使して駆け付けたエリオットが彼ら(主に弟)を取り押さえて現場から連行する事になるのだ。
しかし、これも毎回そうなのだが上の兄があくまでも無自覚でどうして自分が保護されるのか分かっていないところが何とも性質が悪い。


そんな訳で、今回こそはこのバカップルを文化祭に近付けさせてはならない───というのがエリオットの密かなる願望であり目標だった。
周りのクラスメイト達にどれだけ残念がられようと、跳ねっ毛の友人がさりげなく手を回そうとしても、断固として彼らを麗らかな学校行事に招く訳にはいかない。



「……大体、どうして毎回毎回お前らが来るんだ!?」

「それは父さん達が忙しいから仕方ない事だろうが」


ことり、とテーブルに最後の一品を置いた黒髪の兄が答える。
現在二人の兄が養子に入っているこの家は代々医者の家系で、ヴィンセントが勤めている病院にしても院長は父であったりする。彼らの親が父の知り合いの開業医であり、その親が両親とも旅行先の突発事故に巻き込まれて早くに亡くなったので友人であり余裕があった父の家、つまりここに引き取られることになったのだ。

ちなみに現在ここに住んでいるのは彼ら二人と父、自分、そしてとある事情でここに住み込むことになっているリーオの五人。他にも兄や姉達はいるが、彼らはそれぞれ成人して独立している。

それを言えばこの二人の兄達もとっくに成人しているのだが、臨床医ではなく研究としての医学を修める道を選んだ兄、ギルバートの手料理(ギルバートは自宅の設備を利用して研究を進めているので彼はいつも家に居る)を店屋もの嫌いの父がいたく気に入っている為、二人は特に望まなければこの家に住んで構わないらしい。


自分の食い扶持を自分で稼げる者は家に依存する前に独立しろと常々聞かされ、実際に独立している上の兄や姉達とは雲泥の差だ。



「───そういえばエリオット、今年は何をやるんだ?」

「え………し、執事カフェ」

回想が終わった所でよいしょっと向かいの椅子に座ったギルバートがごくごく自然に問い掛け、同じ血が流れているとはいえ弟とは違い完全に邪気のない質問に、気付けばエリオットは普通に答えを返してしまっていた。
答えを聞いて、なるほどと兄は頷く。


「そうか。まあ頑張れよ」

「……馬鹿にしないのか?」

執事カフェと言った途端に吹き出した金髪の兄へこれ見よがしに苦い顔をしながら問うと、まさかとでも言うようにギルバートは瞬きをした。


「お前が頑張ってる所なんて普段家に居るオレには見れないし……楽しみにしてるぞ?」

「………、」


にこ、と全く暗いところのない微笑にうっと詰まるエリオット。
基本的にギルバートは純粋に弟の成長を見に行っているつもりなのでその言葉には何の偽りも感じられないのが困った所だ。実際はついてくるもう一人の兄に色々とされている訳だが、本人はあくまでも無自覚なのでその点は特に気負っている様子すらない。
と、いうかもう既に行くことを前提とした言葉だ。


「……だからさっきから来るなって言ってるだろうが」

「え? だがヴィンスも毎回楽しみにしてるしそんなに嫌がらなくても」

「あのな……」

それは嘘だと思う。
いや、ギルバートからすればそう見えるのだろうが、どう見てもヴィンセントが純粋に義弟の学校行事に興味があるとは思えない。ヴィンセントが楽しみにしているのは単に普段夜型な彼が活動時間帯の合わない兄と出掛ける口実が出来るからだ。

事実として文化祭が終わった後に三人で帰るもしくどこかに食事を食べに行くといった事は皆無で、気が付けば二人で深夜までどこかの店に飲みに行っているらしい。といっても酒に弱いギルバートの事、飲みに行っているというのはバレバレの嘘だ。帰ってくる時にさりげなく腰を庇っていたり酷く顔色が悪かったりとそういうコトになっているのは一目瞭然だが、そこはまあ大人としての配慮があるらしくこちらもあまり突っ込まない事にしている。



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