Y
act.8 きっと想いは消えない
弔いの済んだ墓の前で、男は立っていた。
白い花を一束下げて、石で出来た墓標に刻まれた文字をなぞる。
聞いた事のない名前だった。そもそもこの国の人間ですらなく、外からの移民だった。
共通点など、何もない。
けれど、その下に眠っているであろう亡骸にもう一度会いたくて、男はやってきた。
無論掘り返すつもりなどない。
そんな事に意味はないから。
重要なのは会いに来たという事。
彼女にではなく、それを通した自分の思い出に。
少し躊躇ってから、儀式のように丁重に花を置いた。
「……もう、良いのか」
答えはない。代わりに、白い花弁が風に震える。
鳥のさえずる早朝の靄に、二人の男の影が霞んで消えた。
------------
カモメ様へ
[←前へ]
[戻る]