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「……ごめんなさい」
「いえ、君に何とも無くて良かったですよ。ただ、次からはちゃんと周りに助けを求めて下さいネ」
「…はい」
まるでどこかのパーティーのように様々な種類の料理が並んだテーブルを挟んで、ブレイクはこくりとうなずいたギルバートの頭をぽんぽんと撫でた。
あの後、泣いてしまったギルバートをなだめつつも夕食を用意する気力はなく、デリバリーサービスに頼んだ結果、テーブルの上はちょっとしたバイキングレストランのようになっている。
(しかし、私に頼り切りが心苦しかったとは……)
食事の席で甥っ子は最近自分から離れようとしていた訳を話しており、それを聞きながらブレイクは何ともいえない感想を抱いていた。
自分の事を思って行動に出ようとして空回りしてしまったというのはブレイクからすれば何ともいじらしいの一言に尽きる。親が居ないことで苦労は掛けまいとして来た訳だが、子供の目は欺けなかったらしい。
無理をしていたという自覚はなかったのだが、それでも経験した事のない育児に悩んだり睡眠時間を削っていたりといった負担は長い月日を経てギルバートにとって精神面での重荷となっていたのだ。
食事の手を止め泣きじゃくる甥を抱き締めていると、こんな親でも子供はよく背中を見るものなのだとあらためて認識させられた。
「……話してくれて、ありがとう。ギルバート君」
「…きらいに、なってないですか…?」
「なる訳ないでしょう。君はこんなにも私の事を心配してくれているんですから。それに、君に心配を掛けてしまった私にも責任はあります」
「………、」
「でも、これだけは覚えていて下さいネ」
「…?」
さらさらとやわらかい髪を梳きながら、ブレイクは腕の中の子供にこつんと額を当てて笑った。
「私は君の叔父として悩んだり、ちょっと無理したり、こうして一緒にご飯を食べたりする時が一番幸せなんですよ」
「叔父さん……」
だからそれを迷惑だなんて思わないで下さいね、と囁くと、顔の見えないままの可愛い甥は小さく返事をして絡めた腕に手を添えた。
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桐十様へ
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