DB | ナノ

DB


 二人の成分表

ブロリーがこちらをじっと見つめている。それ自体はままあることだが、その視線にはねっとりとした期待が熱に変換され籠められていた。しかも荒縄に金のプレートという安っぽいんだか高いんだか分からない首飾りのプレート部分は「2月14日」と誇らしげに綴られた板に変わっている。もちろんこの板を見ても尚ブロリーの視線の意図に気付かないほど自分は鈍くなく、ただ気まずげにブロリーと目を合わせないよう虚空に視線を投げやっていた。


「…、……」

「……」


目が、合ってしまった。好奇心に負けブロリーの方をちらりと見てしまったが最後、ブロリーの熱の籠もった視線はオラの視線と絡み合いロックオンとばかりにブロリーの瞳は輝いた。
ブロリーから目を逸らすべく思わず逆方向を向いたが、その刹那そよ風が吹いたと思いきや向いた方向にはすでにブロリーが立っていた。しかも距離は確実に縮められている。先程よりも胸を張り、その板の存在感の主張を強めていた。
諦めたように目をぎゅっと瞑り、ゆっくりと息を吐きながら目を開きブロリーを見つめる。


「よ、ようブロリー!オラになんか用か?」


白々しくそう言ってのけると共に口角がひくりと不自然に持ち上がる。ブロリーは眉根を寄せたままにっとぎこちなく笑い、鍛え上げられたら手をオラの目前へと差し出した。


「……チョコ、欲しい」


やっぱりか!
ぐっと出そうになった言葉を必死で呑み込みにじり寄ってくるブロリーから後退る。チョコなんて気の利いたものをこのオラが携帯しているはずもなく(というより持ってたら食っている)、差し出されたブロリーの手から視線を外す。
持っていないなどと言えば存外我が儘息子なブロリーはなりふり構わず伝説化しオラの頭を鷲掴むだろう。それだけはごめんだ。何とかしてこの場を切り抜けなければ。


「チョコ、ないのか?」

「ねぇぞ」


己の正直な口は思いのほか馬鹿だったようで素直に言葉を滑り落としていた。思わず自分の口を押さえるもすでに遅い。
ブロリーはぎこちない笑みを綺麗さっぱり消し去り真顔でオラを見つめていた。


「………」

「………」


まるで牽制するかのような見つめ合いで互いに膠着していると、先にブロリーが動いた。


「…じゃあ、ちゅう」

「……………は?」

「チョコがないならちゅうしろって、親父が」

「ま、まあ…ちゅうくれぇならいいけどよ」


頭を鷲掴まれ万力のようにギリギリと締め付けられるよかはマシだ。突然チョコをせびり無ければキスしろなどというふざけた教育をするパラガスとは後でゆっくり話をしよう。
オラよりも背の高いブロリーにキスするのは一苦労な上にブロリーは一ミリたりとも屈まないため、仕方がなく浮いて身長を合わせることにした。


「じゃあすっぞ?」

「……」


オラの目を見据えたままこくりと静かに頷くブロリーに自分の唇を押し付ける。色気もへったくれもないただ触れるだけのそれを終え顔を離すと、ブロリーは満足げにぎこちなく笑ってから首飾りを外した。


「ん、バレンタインごっこはもういいんか?」

「…カカロットに貰えたから、もういい」

「……そ、そか」


ブロリーのまっすぐな瞳と言葉に射抜かれ、柄にもなく動揺してしまった。もう少し深いキスをしておくべきだったと、心の隅で悔いたのは多分気のせいだ。表情をまったく変えないブロリー相手に照れているということでなんだか自分の負けん気を煽られた。


「3月14日も、ちゅうがいい」

「いぃ!?」


お返しはしないつもりらしい。
先程悔いたのは絶対に気のせいだったと自分に言い聞かせる。脳天気と他称されているオラでも、ブロリーのまっすぐな気持ちには心がかき乱された。とにかく3月14日はどこか遠くの星にでも逃避行をしようと決意を固め、のほほんとオラの隣に立っているブロリーに大きくため息を吐いた。



二人の成分表
(畏怖と意地と、)
(少しの愛)




prev / top / next




「#学園」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -