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 平和ですね?
けたたましい破壊音が潜伏しているステージ全体に響き渡った。一体なんだ、と建物から空に飛び立ち辺りを見回すと、なにやら一部の建物が塵と化しそこからはもくもくと煙が上がっていた。様子を窺いつつその現場へと足を運んでみる。物の影からブージンのターバンが見える。どうやらブージンも気になって駆けつけたようだ。


「何事だ、こりゃ」

「さあな」


ブージンに後ろから近寄り声をかけるが驚いた様子も見せずただ煙の中をじっと見つめていた。俺も、とブージンの後ろでかがみ込み紫のターバン越しから煙を見つめていると、一つの陰が煙を身体に巻き付けながら現れた。俺やボージャック様よりはやや華奢めのシルエットはどうやら白髪の人造人間だったようだ。ブージンと顔を見合わせてタイミングを合わせたように溜め息を吐き、瓦礫を踏み潰しじゃりじゃりっという音を奏でながらその人造人間の前へと出て行く。


「また来てたのか、13号」

「ブージン、ビドー!貴様らはあの猛獣の手下だったな!」

「…まぁな、一応」

「言っておけ!次下手な真似しやがったら去勢して変態肉屋に売り飛ばすぞこの発情野郎、とな!」


よっぽど怒りが心頭に充満しているようでこちらの話を全く聞かず、言いたいことだけを残し颯爽と飛んでいった。煙とまではいかないが未だに砂埃の舞う破壊された建物を見つめつつ、今度はいったいなにをしたんだとまだ見ぬ上司への呆れを溜め息に換える。ブージンも呆れているようで眉間を手で押さえ険しい顔でアホ、と呟いた。


「ったく!ちっとばかし尻を撫でただけでここまですることもねぇだろうが!」


なにやらこちらも怒り心頭らしい。
瓦礫の下から突然這い出てきたボージャック様は13号悪口雑言をぶちぶちと吐き捨てながらコートの砂埃を払い、それからようやく俺たちの存在に気づいたようだ。よう、と呑気に片手をあげて挨拶している。


「よう、じゃないでしょう?いったいなにやらかしたんです」

「なにもしちゃいねーよ!」

「尻撫でたんでしょーが!なにもしてねぇってこっちゃねぇでしょー!」

「な、っ…撫でただけだし!お高くとまりやがって、あの野郎!おいブージン、13号はどこ行きやがった?!」


説法をしてやろうと気炎を上げたが、すぐさまボージャック様はただ静かにことの顛末を見守っているブージンに13号の居場所を聞き出しブージンの指差した先へと飛んでいってしまった。昔は大人しかったのに、誰に似たのだ。確実に俺やブージンではない。図太く育ってくれて結構だが、こりゃ図太すぎだ。
どこかで教育を間違えただろうかと肩を下げていると、今度は真後ろから決壊音と爆風が俺たちの体を揺らした。ブージンに至っては不意の爆風に驚き耐えられなかったのか俺の股布にしがみついている。孫悟空たちと戦うために用意されたステージが役を果たさず荒んでゆく。


「ふっざけんじゃないよゴクア!これあんパンじゃない!しかもコンビニの!アタシが頼んだのはくるみパン!西の都で一番おいしいって噂のベーカリーのくるみパンが食べたかったのよ!」

「だ、からって…っな、殴ることないだろう?!」

「なよなよしてんじゃないよ!気持ち悪いわね!5秒以内に買ってきなさいよね!」

「無理だろ!あんパン食えよ」

「今はくるみパンが食べたいのよ!」

「ふざけんな!」


これではまるで誤教育のバーゲンセールだ。ブージンがザンギャの気迫と無理難題に息を呑んでいるのがわかる。正味俺も怖い。
毅然とは言えないながらも強い口調で言い返しているゴクアだが、遥かに体の小さいザンギャに押され気味である。呆れ果てもはやなにも言えないでいると、二人の口論は順調にヒートアップしていきついには瓦礫の投げ合いという泥試合に発展してしまった。
子供じみた喧嘩をするなと止めに入ろうとしたが、子供の喧嘩にしては悪意と殺気が込められすぎている瓦礫の投げ合いに、思わず口を結んだ。収拾がつかないであろう泥試合をじっと見つめていると、沈黙を守っていたブージンがくだらんと小さく呟いて背中を向け、どこかへと飛び去ってしまった。
なんと。置いてけぼりだ。


「大体あんたね、この間も5秒時間をあげたのに95秒も遅刻してたじゃない!時間は守りな!」

「そもそも5秒とかいう時間制限いらないだろ?!お前、パン買ってきても食べるのは二、三時間くらいあとじゃないか!」

「うるさいうるさいうるさーい!早く行け!」

「お前が行け!」


うむ。
今日も平和ということで片づかないだろうか?これ。


「少なくとも平和ではないな」

「ブージン…お前、それ」

「西の都一番人気のベーカリーのくるみパンだ。昨日買ってきた」

「……それ、渡せば収拾つくんじゃあないか…?」

「これは私のだ」

「……」







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