様変わり
風が埃を舞い上げている瓦礫にまみれた街のうちの一つの廃墟。そこからは肌がぶつかり合う音と水音、それとまだ幼さが残りながらも勇ましかろう青年の色のある嬌声が響いていた。
「うぁあっ!抜きましょう、ボージャック様っ…!やはりこんなこと、は…っ」
「んっ、ぐ…!ゴ、クアっ…!動く、ぞ…!」
「ボっ、ジャック様!まだ慣れていないのに…!激しく動いたら裂けてしまいます!もっとゆっくり…うあっ!」
「俺の、心配なんかっ、してる場合か…っ今にも出しちまいそうなくらいビンッビンじゃねぇか」
薄暗く空気の滞ったその一室では二人の男が乱れていた。がたいのしっかりしている男は屈強そうだが男に比べるとまだまだ貧弱そうに見えてしまう青年の上に跨がり、本来排泄に使うものに青年の隆々とした性器をくわえ込んでいた。潤滑油を使わず無理矢理くわえ込んでいるのか、男からは少々の流血が見えている。青年の心配も虚しく男のものはもう裂けているようだった。
男は痛みに顔を歪ませまいと必死で平静を保ち不適な笑みを浮かべながら、青年を煽るようにまだ痛むであろう入り口付近で青年の亀頭を引っかけた。
「う…!ちょっと、っあ…く!ボージャック様、ゆっく」
「集中力のない奴だな」
男は快感で顔を強張らせつつも依然と男にやめるよう促している青年の口を台詞も半ばのまま己の唇で塞ぐ。それでも腰の動きは止まらなかった。青年は驚いたように目を見張ったが一瞬目を虚ろにし細めてから、まるでたがが外れたように自分から男の口を貪った。今度は男が目を見張る。が、青年が男の口を貪り始めた途端に男は腰を動かすのをやめ、笑みを浮かべ大人しく青年に口を貪られていた。口に溜まっていた唾液を男に分け与えるよう執拗に舌を絡め口蓋を舌先で翻弄する。口蓋に青年の舌が触れた瞬間男はびくりと巨体を揺らした。青年はちらりと視界いっぱいに広がる男の顔を一瞥したが気にもとめず柔らかい舌根に舌を埋めた。
しばらく唾液の与え合いを行ってから静かに顔を離すとやけに粘着質な唾液が糸となり滴となり、双方の唇から垂れた。
「動いて、いいですか?」
「…様変わりの激しいやつめ」
「ボージャック様から誘ったんでしょう。吹っ切れさせたのは貴方です。嫌ならば止めますが」
青年は先程まで男の下で快感に遊ばれていたとは思えないほど凛々しい面持ちで挑発的ともとれないような笑みを浮かべ男の頬に手を添えた。男は裂けた痛みなど元からなかったかのようにさも楽しげな表情で思い切り腰を動かした。不意打ちだったのか青年は体を揺らし甘く苦しげな声を短く上げる。
「はっ、好きにしろ」
「っ…今までの分、しっかり喘いでいただきます」
青年は性器を繋ぎ合わせたままぐりんと起き上がり膝を硬質な床に置きやって自分より遙かに体の大きい男を抱えた。男も自然と青年の首に腕を回し、落ちないよう賢明にすがりつく。しかしそのすがりつく腕は突然始まった青年の激しいピストンに危うく外れかけそうになっていた。
「うあ、んぁっ!んっ、ぐ、っ!」
「ボージャック様の様変わりもっ、かなりのものだと思いますが…っ」
ずんずんと確実に男の深いところまで身を沈める青年は限界が近いのかその動きは激しさを増した。入り口まで引き抜き一気に突いていた余裕のある動きからとにかく奥へ奥へと深く突いていく乱雑な動きに変わり、男の喘ぎ声や呼吸もその動きに合ったものに変わった。青年はボージャック様も一緒に、と苦しげな表情で小さく呟き男の性器を片手で扱き始める。男は二つの快感に身を震わせながらも青年に重ねるだけのキスをして離れないようできるだけ身体を寄せた。
「ボージャック様、出る…っ!はな、れて…くださ…っ!」
「はぁっ、う…っ中に出したって、変わりゃしねぇだろっ…!俺の、中に…っ」
「ボージャック様!くっ、ボージャックさまぁ…っ!」
青年が男の名前を連呼すると共に青年の性器は一瞬だけどくんと脈打ち、男の中に静を放った。少し遅れて男の性器からも精は飛びだし古傷の目立つ己の胸板を汚す。男はくたりと青年に体を預け、青年も浮かせていた腰を床に着けどさりと男を抱えたまま寝転がった。二人は繋がり合ったまま途切れ途切れの息を正しつつも先程の余韻に浸っていた。しばらく赤らんだ頬に虚ろな瞳でぼーっと鉄骨の覗く天井を見つめていた青年だったが、落ち着き気がついた途端にゆっくりと男から性器を引き抜いた。今まで性器で栓をされていた男のものからは青年の精子がこぽりとこぼれだし血のにじんだそこを濡らす。生暖かい精子が排泄の穴から出て来たことに違和感を覚えたのか男は起きあがろうとしたが、青年によってそれは妨げられた。青年は上体を起こし男を寝転がしたままその臀部に目を細めた。
「……、裂けてしまってますね」
「…そりゃあな」
「おいたわしやボージャック様!俺はなにをしてるんだ!汚れなき純真無垢たるベールのようなボージャック様を性欲に負け欲望のなすがままに翻弄し汚しきり挙げ句の果てにお怪我まで!うおおおっ、このゴクア改悛の極み!己が腹をかっさばき数々の非礼詫びることとします!申し訳ありませんが介錯をお願いします!」
「……あ?」
顔を手で覆い妙ちきりんな例えをしたかと思えば雄叫びを上げながら傍らに置いてあった剣に手をつける青年に、男はぎょっとして慌てて起きあがった。
「お前の様変わりは本当にひどすぎるぞ、落ち着け!その物騒なもんは収めろ!」
「しかしっ…俺は、汚れも知らぬ天使の如きボージャック様を…あまつさえ中にまで出して…!」
「落ち着け!テンションがおかしいぞ、ゴクア!」
青年は先程までの凛々しい態度を一変させ男に深々と頭を下げ、天使だなどと不気味なことを口走っている。男はこめかみに手を当て呆れていたが突然青年の胸倉をつかみ上げ、事に及んでいた際していたような深く濃厚なキスで仕返しとばかりに今度は青年の口を貪った。挙動不審だった青年は一挙に鎮まり大人しくされるがままに貪られていたが、男が唇を離そうとした瞬間男の後頭部を押さえつけ逃げられまいと再び唇をくっつけた。勢いよく唇をくっつけたものだから前歯ががちりと音を立てその振動が歯茎を伝ってきたが、青年は構わず男の舌を吸うようにねっとり絡めている。
二度目の息継ぎに口を離しまた繋ごうとした途端、青年は我に返ったように男の肩に手を置きばっと離れる。そしてばつの悪そうに眉根を寄せて肩を竦ませた。
「すす、すみません…つい……」
「…随分欲に素直になったな」
「ありがとうございます…」
「阿呆、皮肉だ」
唇から垂れていた唾液を手の甲で拭き取りながら青年に罵声を向けた。突発的な行為に後悔しているのか先程よりは落ち着いているものの、青年の周りの空気は淀んでいた。男は二の舞を踏まぬよう若干青年から距離をとりつつ青年に声をかけた。
「俺とお前で、恋人になればいい」
「…は、」
「元より俺からお前に詰め寄ったんだ。その意味を汲み取れ、この阿呆」
「え、っと…しかしボージャック様の忠実なる僕である俺が恋人だなどとそのようなもったいない…」
「ごちゃごちゃ御託並べるな!いいか、俺が好きと言ってるんだ!責任とれ!」
「はっはい!」
「言質取ったぞ」
「え!?」
男は勝ち誇ったように笑ってから無理矢理青年の腕を引き自分の胸に押し込む。かすかに聞こえる男の鼓動に顔を赤くさせつつも抵抗しようとしていたが、あの孫悟飯をも脱出不可にしたこの腕力に勝てるわけもなく諦めたように男の胸板に体を預けた。
「もう、好きにしてください…」
「割と諦めが早いな。物分かりがいい奴は好きだぞ」
「好…!?おっ、俺も好きです!」
「……ただ、やっぱりお前のことはよく分からん」
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