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 自覚と牽制


「おい悟天!それ俺のキャラじゃん使うなよ!」

「はい残念、俺が先に選んじゃったもんね。せいぜい2Pカラーで使いなよ」

「くそっ…2Pカラーなんて…!よし、コントローラー交換しようぜ悟天!」

「やーだよっ!」


悔しそうに画面を見つめるトランクスくんにべっと舌を出しながらおどけて返す。ちらちらと俺の手元にあるコントローラーを見つめてくるトランクスくんに苦笑しながらもキャラ選択からステージ選択の画面へと移す。ステージ選択はトランクスくんに決定権があるようで、トランクスくんがスティックを倒すと画面上の矢印が同方向へと移動する。俺とトランクスくんの間に置いてあるジュースを手に取り喉を潤ませていると突然トランクスくんがニヤニヤと勝気な笑みを浮かべながら俺を横目で見つめた。


「へっへー、悟天の苦手なステージでやろうぜ?」

「あぁいいよ。俺、ここ克服しちゃってさぁ。今では得意ステージ」

「え!?も、もっと早く言えよ!もう選択しちゃっただろ、馬鹿!」

「トランクスくんもなかなか頭の悪いこと考えるよね。しっかりしてよ、次期社長」

「うるさい、喋んな!」


用意されたスナック菓子を口でくわえながらコントローラーを握りなおし、ブウと戦ったときと同じように気を高めて画面を見つめる。戦うときと同じほどの集中をゲームにかけるのはアホらしいとよく言われるが、このゲームは2Dアングルながらキャラの動きや攻撃パターンは多種多様、ステージ上の仕掛けにもひどく凝ったものがありこれぐらいの集中や注意を払わねば、到底到底クリアし得ないレベルの高いゲームなのだ。もちろん、カプセルコーポレーション作。
激しくボタンを叩く音が隣から聞こえる上、時たま「あっ」だの「ええっ!?」だのと忙しい感想を一人でくすぶらせている。ボタンを叩く音が激しい割には画面上でのトランクスくんは俺にボコボコにされている。小さい頃はトランクスくんの方が上手だったが、トランクスくんが勉強で忙しくなりあまりゲームをやらなくなったためか俺に相当の才能があるためか、今では俺の方が何枚も上手である。しかも俺は暇人なわけでゲームをやる時間なんて腐るほどあるのだ。腕の鈍ったトランクスくんなど敵ではない。
しかしかと言って手加減をしないのは大人気ないと思い、軽く繋ぐコンボ数を減らしハメ技と防御を自制する。すると途端トランクスくんが優勢になり、俺のHPとトランクスくんのHPは残り同じほどになった。


「へへ、このまま一気に畳み掛けてやる!」

「トランクスくんなんかに負けるもんかー!」

「でりゃあーっ!」


トランクスくんが画面上で仕掛けてくる猛攻撃を華麗に上ジャンプでかわすと、トランクスくんは通常攻撃+突進技で止めをさそうとしていたらしくそのまま虚空へと突進し場外へと落ちていった。
なんと。自滅である。


「あーーーーっ!」

「自滅って…!俺手加減したのに自滅って…!トランクスくん、腕鈍りすぎだよ!」

「え、な、なに?お前手加減してたのか!?くっそー、馬鹿にしやがって!もう一回だもう一回!」

「嫌だよ!トランクスくん自分が勝つまでやるじゃん!俺を一生帰さない気!?」

「なんだとぉ!?一生俺が勝てないって言うのか、悟天!」

「うんっ」

「真顔で頷くなよ!」


俺に手加減されていたのが相当悔しかったのか、トランクスくんは今にもハンカチを食いしばり地団太を踏みそうな勢いで俺を睨み付けている。そして四つん這いのまま床を這い距離がだんだんと縮められていく。後ずさりをするもすぐに追いつかれてしまい、あっという間に互いの顔に息がかかる距離まで詰められてしまった。しかも俺が逃げないようになのか自分の両足で挟むようにして覆い被さられている。ここまでヒートアップした負けず嫌いの王者トランクスくんを鎮めるのは長い付き合いの俺でも困難を極める。というか長い付き合いだからこそ、次にトランクスくんが口にする言葉がいとも容易く察しがついた。


「対戦ごっこしよう、そっちの方が手っ取り早い!」

「や、やっぱり…相変わらずムチャクチャ言うんだからさぁ〜…」


ハハ、と苦笑いしながら鼻息の荒いトランクスくんから逃れるために最早寝転がるように状態を下げるが、それを簡単に許すトランクスくんではなく俺の胸倉をぐいっと掴み上げた。小さい頃よりは大人しくなり強引さや驕りなどは疾うになくなったかと思いきや、まだまだ健在であった。あの頃よりはムチャクチャを言わなくなったが。


「ほら、重力室行くぞ!今日は父さんも出かけてるし、久々にめいっぱい体動かすぞ!」

「でもさぁ、俺明日デートだから筋肉痛は勘弁なんだけど…」

「じゃあ大人しく俺に殴られるだけでいいからさ!」

「いや、青アザだらけも嫌だよ…」


口では愚痴をこぼしながらもトランクスくんに引っ張られされるがままになる。不平を漏らしてはいるが本当のところ久しぶりにトランクスくんと対戦ごっこができることに心を躍らせている。修行も怪我も戦闘の際の緊張感も好きではないがトランクスくんとの対戦ごっこは遊び感覚なもので楽しく、昔まだお互い将来のことなんて考えたことのなかった頃を彷彿させるため非常に楽しみである。最近トランクスくんと遊べる時間がめっきり減り寂しさから感傷に浸りたいのかもしれない。

そもそも俺が女の子と遊び始めたのもトランクスくんが勉強に時間を搾取され俺と遊べなくなってしまったからであり、その頃から俺は寂しかったんだ。久しぶりに会ってもトランクスくんはまったく平気そうな顔をしており、俺だけ寂しがっていたのかと思うと少し恥ずかしくなり寂しかったという言葉を飲み込んだのを覚えている。久しぶりに会ったのに「おぉ、久々」で終わるトランクスくんの神経が分からないよ!
なんだかだんだんトランクスくんにイライラしてきてしまった。俺はこんなに君に会えず寂しくて君が大好きなのに、本当に鈍いんだからさ。


「え」

「?どうしたんだよ、悟天」


いやいや、大好きってなんだよ。俺は別に一番の友達と遊べなくなるのが寂しかっただけで、別に女の子と触れるときにトランクスくんの顔を思い浮かべたりキスをするときにトランクスくんの唇の感触を心に描いたりなんてしてな…してるじゃん!思いっきり!
嘆息を漏らし己の馬鹿を噛み締める。ずっと好きが当たり前だったためその好きの変化に気づかないなんて、どちらが鈍いんだか。突然俺が脈絡もない声を上げたからかトランクスくんは一旦歩を進めるのをやめ、首を傾げながら怪訝そうに俺の顔を覗いていた。先程よりは顔は近くないが、それでも好きの変化を自覚してしまった今の俺には刺激が強く思わずトランクスくんの肩を押し退け無理矢理距離をとった。


「えっ、悟天?」

「なっ、なんでもないよ!ほら対戦ごっこしよう!けちょんけちょんにやっつけちゃうよ!」

「けちょ…!?よーっし、今日中には帰さないからな!」

「あーはいはい」


頬が若干高潮しているのを覚られないためさり気なくトランクスくんのやや前方を歩く。自覚したばかりのこの好きはまだ少し心に置いておくことにしよう。明日はデートも控えていることだし。
ふう、と小さくため息を吐きながら熱い頬を手の甲で一拭いしてから未だ悔しそうにしているトランクスくんに振り向いた。


「トランクスくん」

「なんだよっ」

「俺たち、ずっと友達ね!」

「…なんだよ今更。いきなり恥ずかしいやつ」


照れ隠しなのか俺から目を外して視線を泳がせるトランクスくんと笑顔でじゃれ合いながらも、自分で仕掛けた己への牽制で心は晴れ間なく曇り渡っていた。






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