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 会いたかったよ!

分厚い参考書に素っ気なくびっしりと書き綴られている数式を目で追ってから、がくりと大きく項垂れた。明日の試験に向けて最後の仕上げとばかりに参考書に目を通しているのはいいが、いつもは気持ちいいくらいに頭へと入ってくる数式が全く頭に入らない。
苦々しく眉根を寄せ参考書を下敷きに机に突っ伏し、大きくため息を吐く。集中できない理由は分かっている。


「あー、もう…」


暇があれば勉強、暇がなければ時間を割いて勉強、というほど勤勉なこの僕が勉強に先っぽほども身が入らない理由とは、もちろんピッコロさん以外にありはしないのである。テスト期間に入る前、期間中は会わないと宣言した途端寂しそうにするピッコロさんを散々楽しんだ手前期間中に会いに行くなんて申し訳が立たないしそもそもプライドが許さない。正に自分で掘った穴に自分で落ちている。

くしゃりと前髪を掻きあげてから付箋のたくさん貼られた参考書を閉じ、乱暴にカバンへと放ってから大きく伸びる。ゴキン、と重たい音を上げて呻く首を一撫でしてもう一度机へ突っ伏し、ぽつりと小さく呟いた。


「ピッコロさん、会いたいな」

「っ…」

「へ、?」


素直な感情を吐露した瞬間、窓の外で乱れた気に気付いた。今まで気も気配も消していたらしい何かが、窓の外にて僕の発言に動揺を見せた。窓はしっかりと施錠が施されているため、あの小さな呟きが聞こえるほどの聴覚を持っている人は限られる。利口な頭の特定した人物が頭に過ぎった刹那、弾かれたように施錠を解いて窓を開け広げた。


「ピッコロ、さん」

「あっ…ご、悟飯……べ、勉強の邪魔をして悪かった、すぐに消え」

「ピッコロさんっ!」


会いたいという言葉の余韻に浸っているのか赤く染まった頬を気まずそうに僕から逸らすピッコロさんに愛しさが封の切られたように溢れ出す。なりふり構わず窓から飛び出しその首へと抱きついた。あわあわしているかわいいピッコロさんを尻目で楽しみつつ、ピッコロさんの筋肉で固められていて硬い首筋に顔を埋めピッコロさんのにおいを堪能する。


「ピッコロさんも僕に会いたかったんですか?」

「ばっ…!馬鹿!そんなわけ…」

「会いたかったんでしょ、そうなんですよね?僕は会いたかった、すごくすごく会いたかった」

「〜〜っ…そうだっ!お前に会いたかったんだ、悟飯!だからそんな縋るような目で見るなっ…」


ピッコロさん自ら出向いてくれたことがあまりに嬉しく涙が浮かぶ。この涙は決して寂しかったからとか、やっと会えたからとか、そんな軟弱なものではない。決して。
とにかくピッコロさんが僕の視界に存在していることで嬉し涙が僕の頬を濡らしているのだ。しゃくりあげてしまうほどの嬉し涙だ。


「ピッコロさぁんっ…!ひぐっ、僕っ、ピッコロさんにっ、あいだぐでぇ〜!」

「じ、自分で会わないと言ったんだろう!わめくな悟飯!」

「だって僕っ、ピッコロさんといないと死んじゃうぅぅ…!」

「我が儘な奴め…」

「我が儘でいいから、えぐっ、一緒にいてくださいよぉっ…!」


呆れたようにため息を吐くピッコロさんをちらりと見上げてみるとその顔は満更でもなさそうだ。僕はピッコロさんに会いたくて泣いて、ピッコロさんは僕に会いたくて僕の馬鹿な宣言を無視して会いに来た。つまるところ僕たちは互いに寂しかったのである。
ぐすっと鼻をすすりながらもピッコロさんの唇を軽く塞ぐ。長くキスをしていたかったが泣いたため鼻が詰まっており窒息死をするわけにもいかずそれはやむを得ず諦めた。


「ピッコロさんっ」

「…なんだ」

「勉強するんで、朝まで一緒に居てくれますか?」

「……聞くまでもないことを聞くな、馬鹿」

「へへっ大好きですよ!歌を作るくらいに!」

「それはやめろ!」


もちろん試験はすべて満点でした。
あれ以来ピッコロさんとずっと一緒だけど、なにか質問ある?





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