終夜、愛し続ける
「よっ、ベジータ!」
突如として私室に現れたその暢気な笑顔に、俺は呆れから大きくため息を吐いた。
「また来やがったのか、カカロット」
突如として目の前に現れるカカロットのこの瞬間移動には大分慣れたが心臓に悪いのには変わりない。自分のプライドが許さないため表立って驚きはしないが突然現れる度に心臓は飛び跳ねている。驚きも心臓が飛び跳ねる一翼になっているが、好いている奴が突然現れれば驚き以外のもので胸が高鳴るものだろう。勝手に俺のベッドへと腰掛けているカカロットを尻目に見ると俺の視線に気付いたのかにこりと優しい笑みを浮かべた。その笑顔に不意をつかれ、赤面を隠すため慌ててカカロットを視界から外した。
「な、何の用で来たんだっ!カカロット!」
「そんなの、分かってんだろ?」
突然真面目な声色に変わったカカロットの声とベッドの軋む音が鼓膜を震わせてすぐ、後ろからカカロットの腕が首にへと巻かれた。肌の触れ合っているところからカカロットの体温が直に伝わり先とは比にならないほど顔に熱が集まっていく。カカロットの落ち着いた心音が背中から俺の体に響き、カカロットとは対極した俺の心音が体の奥でぐるぐると混ざり合う。
「ベジータ……」
「ん、」
カカロットは俺の顎を持ち上げて後ろへと顔を向かせ、求めるように俺の名を呼んでから唇を重ねた。重ねられた唇は熱く火照っており、閉じていた瞳をふと細く開くとカカロットの頬は俺と同じように赤く染まり上がっていた。顔を赤く染め切なそうに唇を重ねるカカロットの余裕のなさに優越を感じ、心で鼻を鳴らしてからカカロットの歯列を舌でなぞった。渾然と融和していた唇から滑り出された舌にカカロットは驚いたように瞳を開いたが、余程余裕がなかったのかすぐさま俺の舌に己の舌を絡ませ激しく口内を貪る。しばらく求め合い口内を侵し合ってから静かに唇を離すと、銀色の糸が妖艶に輝き俺とカカロットを結んでいた。その糸を眺めながらぼうっとキスの余韻に浸っていると、カカロットは舌をなめずってその糸を切り俺の瞼にキスを落とした。
「…続き、してもいいか?」
「…勝手にしやがれ…」
曖昧な返事を返すとカカロットは嬉しそうに頷き、いとも容易く俺を抱き上げた。ベッドへと歩みを進めながらも俺の額や瞼、頬にキスを落としながらにへっと笑うカカロットを睨むように見上げる。
「愛してっぞ、ベジータ」
「…ふん」
「でえ好きだ」
「くだらん」
「一生一緒にいような」
「ふざけるな」
罠かと疑ってしまうほどの甘い囁きにひたすら心にもないことを打ち返していく。しかしカカロットは嫌な顔一つせずただ淡々と甘い囁きを唇からぽろぽろと零し、愛おしそうに俺と視線を絡める。絡まった視線を楽しむように目を細めてから、子供に言い聞かせるような優しい声色で悠然と呟いた。
「分かってっから、でえじょぶだかんな」
「……クソッタレ、」
なにが分かっていてなにが大丈夫なのか、主語のないそれは不思議と意味が伝わってくる。体の芯へと浸透してくるその言葉を受け入れる。こいつにはやはり敵わないと唇を噛み締めながら、その身この心すべてをゆっくりとカカロットへ預けていった。
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