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 理性は捨て置く

拳が肌にめり込む鈍い音は、思ったほか荒野に大きく響いた。


「か、は…っ!」

「なんだよベジータ、もう終わりか?オラまだ殴り足んねぇぞ」


胃液と涎を口の端から垂らしながら地面に膝をつくベジータの髪を鷲掴み、オラが視界に映るようぐっと顔を近づける。痛みで目の前が霞んでいるのかその目は虚ろで焦点が合わない。ふとベジータの体に目を落とすと無数の痣や擦り傷ができており、体の芯がぞくりと震えた。
しかしさすがのベジータもかなりダメージを受け消耗している。これ以上痛みつけては壊れてしまいそうだ。自分の異常すぎる性癖を壊れずに受け止められるのはベジータだけな為、ベジータをここで壊してしまっては今後の楽しみがなくなってしまう。


「ま、相当痛み付けたし。こんくれぇで許してやっか」


掴んでいた髪を離すとベジータは力なく地面に倒れ込んだ。すぐさま起き上がり復讐とばかりに殴りかかってくるかと思いきや、ベジータは倒れ込んだまま荒い息を吐いているだけだった。まさか立てねぇ?いやいや、そこまで手酷く痛みつけた覚えはない。
仙豆でももらってくっかな、とベジータを見下ろしながら頬を掻いていると、ベジータが突然頭を上げオラを睨みつけた。


「カカロット…ッ」

「ん?立てねぇんか、手ェ貸してやっか?」

「……、その…」


まだまだ壊れそうのないベジータに安堵し、わざとベジータのプライドに障るようなことを言ってのける。しかしベジータは怒ることもせず、ただオラを睨みつけていた双眸を地面に落として言い淀んだ。いつもならキレてオラに殴りかかってくる程度の言葉だったはずだが、やはりどこかおかしい。
目を細めながらベジータの口が開くのを待っていると、しばらくしてからベジータは目をぎゅっと瞑り意を決したように小さく零した。


「……もっと、しろ…」

「………は?」


掠れたその声はオラの耳に届いてから、ベジータの荒い息と共に地面へと溶け込んだ。ベジータは今、なんと言った?
己の耳の異常を心配したが生憎とオラの耳の調子は良好だった。驚きでベジータを見下ろしたまま固まっていると、ベジータはフラッと立ち上がり覚束ない足取りでオラへと歩み寄りそのボロボロの身をオラの体に預けた。


「…俺を…もっと、痛みつけろ…」

「っお、いベジータ…!」


オラに身を寄せながら上目遣いで懇願するベジータに思わず吃る。ベジータにはそういった趣味があったのだろうか。確かに今までも何度かこうして一方的に殴ったり蹴ったりしていたが抵抗を見せないベジータに、少しの期待はしていた。もしかして自分に好意でもあるのでは、もしかして自分とは対極的な性癖でもあるのでは、と。しかし主だっての期待は前者であり、後者は自慰に励む際の妄想でしかなかった。
こんな夢のようなことが起きるはずがない、と頭では否定的に考えていたが、傍らの冷静な理性はこの場をどう切り抜けるのが一番かという計算を立てている。


「カカロット、俺を殴れよぉ…っ!」

「……やーだよっ!」


冷静な理性が弾き出した答えに添う返事をにっと笑いながら返すと、ベジータはキッと気迫の足らない面持ちでオラを睨みつけた。


「なぜだ、貴様…!俺のことを散々、……こんなにしておいて」

「それは人にもの頼む態度じゃねぇ。そうだろ、ベジータ」

「…なに?」

「んー、そだなぁ…「淫猥王子を暴力でイかせてください」とかねだってみろよ」

「なっ…!そんなことができるかっ!ふざけるなカカロット!」

「オラは本気だ。おねだりできねんなら、オラは帰ぇるぞ?」


ん?とわざと優しく笑いかけるとベジータは押し黙り、プライドを壊す覚悟を決めているのか視線を地面に落としたまま固まった。我ながら言うに耐えない低俗な言葉だが、ベジータの凝り固まったプライドを崩すには丁度いい。ベジータと自分の性癖が合致しているということが分かった今、オラの頭はベジータを今後どう調教するかで頭がいっぱいだった。調教の為には、まずプライドを棄てさせる。
苦々しく顔を顰めるベジータをじっと見つめているとベジータは覚悟を決めたのか、拳を強く握って視線を泳がせ頬に赤みを差させながら口をゆっくりと開いた。


「っ…い、んわい…王子を…暴力で、……イかせて、くださ…っ」

「ははっ、なーにが王子様だよ!ただの変態だぞ、おめぇ」


ベジータの口から零れ落ちた低俗な言葉は思っていた上に滑稽で、色欲が掻き立てられた。滑稽だからという口振りで笑っているが、実際は嬉しさや愉しさが自然と頬を綻ばせていた。ベジータは笑い出したオラを睨んでいたがその瞳は大きな期待が籠められている。ベジータの熱い視線に口元をにやつかせながら拳を握ってみせると期待に満ちた瞳は揺れ、まるで餓えているような縋った顔つきに変わった。


「ご褒美やんなきゃな?王子様」

「がっ…!」


思い切りベジータの頬へ拳を振り下ろすと、踏ん張るのを忘れていたのかベジータは成すがままといったように地面に叩きつけられた。口の中を切ったらしく口の端からは涎と血をだらしなく垂れさせ、殴られた頬を押さえながら恍惚とオラを見つめていた。その物欲しそうな顔にぞくぞくと体に熱が集まるのを感じ、ベジータの腹を思い切り蹴り上げる。鍛えられたベジータの腹筋に足がめり込んでいく快感は、まるで事に及んでいるときのようなものだった。


「げほ、っはあ…!かかろ、もっと…もっと、欲しい…」

「夕暮れまではまだまだ時間あっからな、たくさん痛みつけてやるよ」

「ん…もっと、たくさん……痛いのほしい…」


地面に這い蹲りながら恍惚とするベジータは余りにも弱々しくまたオラの欲を刺激し、その瞳のどこかに狂気を感じさせた。オラも狂ってる、ベジータも狂ってる。正気の沙汰とは思えないこの関係性は心地良く居心地も良い。


「似たもん同士だよな、オラたちって」


自嘲にも取れる笑みで笑い返し、ベジータの脇腹へと拳を振り上げた。
気持ちの良さそうに喘ぐベジータも、それを見て快感を得るオラも、相当に狂ってる。




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