04ジンクス:桜の下
「…っ何なんだよ!」
「それこっちの台詞なんですけど!」
「突っかかってくんな!今はお前と喧嘩してる暇もねぇんだよ!!!木更津は見なかったか?さっきから探してんだけど」
珍しく喧嘩にならず(?)聞いてくる佐藤を見るのは始めてで、恐らく相当急いでいるんだろう。
「…突っかかってきたのどっちよ…そもそも木更津くんがわからない」
「結構有名な奴だけど何で知らねぇんだよ?
隣のクラスの一番身長高い奴だよ、天パがかった茶髪で、イケメンイケメン騒がれて有名だろ?」
「…木更津くんって何部?」
「軽音部!!!これも有名な話だろ!?」
急に声を荒げだした佐藤に腹が立ち、思わず言い返す。
「何もそんなに怒らなくてもいいでしょ!?」
「だからお前と言い合ってる時間はねぇんだよ!!!」
「大体何でそんな急いでるワケ!?」
「木更津の女が倒れたんだよ!!!しかも救急車で送られた!!!!!」
「えっ…」
思わず絶句する。…と同時に自分の何も考えない発言に情けなさを覚えた。
「…あ、その、声荒げすぎた。あー…まだ、思い出せねぇか?」
「…うん。けど、探す!!!」
意を決した私の発言に、佐藤は目を丸くする。
「はぁ!?顔も知らねぇんだろ!?」
「…そ、それは、そうだけど…」
「馬鹿じゃねぇの!?意味ねぇだろ!もう少しまともに考えろよ!!!」
「何もそこまで言わなくてもいいでしょ!?
…例えば、えっと、その…ほら!アンタと一緒に探せばいいじゃない!」
頭にふっと降りてきたかのように浮かんだ名案。
正しく、インスピレーションというやつだ。
「………は?」
折角の名案だというのに、ポカンとした顔を隠そうともせず佐藤の口は開いたまま塞がらないようだ。
「だから!一緒に探すの!!!
ちゃんと聞きなさいよ、耳遠いわねお爺ちゃん!」
「だ、誰が爺ちゃんじゃ馬鹿!……い、行くぞ!!!」
教室を飛び出した佐藤を追い、駆け出す。
・・・
「くそっ…何でいねぇんだよ!」
散々校内を探し回ったが木更津くんは居らず、現在進行形で走っている。
「ね、ちょ、待ってよ…!」
「疲れてんなら休んでろ!俺は一人でも探す!!!」
「屋上!」
「あ"?」
「屋上に行けば、見えるかもってこと!理解しなさいよ!!!」
私の発言に、急に反転した佐藤。
屋上へ上る階段へと駆け出したのだが、もし進行方向を変えるなら言うくらいしてほしい。
「桜の木って、どこにあんだ!?」
「さ、桜…!?」
「今思い出した!
アイツ、朝練の時間部室に篭ってないことあんだよ!
校内のどっかの桜の木の下で演奏会してんだよ!!!アンプつけてねぇから音も近くにしか聞こえないし、知ってなんかねぇだろうけど!」
そう言い放ち、屋上のドアを思い切りあけ押した。
「桜なら、多分…プールの近くの、」
そこまで言いかけた私の発言は佐藤によってかき消された。
「居た!!!」
どうやら噂の木更津くんは丁度演奏を終えたらしく女子に囲まれながら楽器の片付けをしていた。
「おい木更津!!!!!!」
佐藤の耳を劈かんばかりの声に思わず耳を塞ぐ。
ただ幸い、木更津くんには聞こえたらしい。
「病院行け!!!!!!!」
耳を塞いだ手ごしでも聞こえる大声で言うと、佐藤はその場に引っくり返った。
「…あー…だり」
「ちょ!?」
「…大丈夫だ馬鹿、疲れてんだから寝かせろ」
「ちょっと!」
「あ"?疲れてるっつってんだろ…!」
「違うわよ!木更津くん、校門で先生に止められてる!」
「!マジかよ!!!」
ばっと起き上がり再び駆け出す佐藤に私も弾かれたように追う。
・・・
「…つっ、かれたぁー」
あの後事情説明に終われ、病棟まで教え例の桜の木の下で休んでいた。
「悪ぃつき合わせて」
「はぁ?何今更謝ってんの?
別に疲れただけでしょ、いいわよ」
「もっと豚みたいにブーブー言うか思ったらそうでもねぇのな」
「誰が豚よ、誰が!」
「冗談だっつーの!
…そういやさ、お前この桜のジンクス知ってるか?」
「ジンクス?
知らないけど、何?なんか特別な意味でもあるの?」
「別にねぇけど?」
「はぁー!?意味わっかんない!」
「怒鳴るなやー」
"桜の木の下で共に会話をした男女は結ばれる"なんて夢みたいなジンクスを知って一人で何とも言えない気持ちになったのは、後日の話。