「速水さんっ…!」


「ん…」


ぱちり、と目を覚まし、何度か瞬きする速水さん。


「だ、大丈夫!?
急に倒れたけど…頭痛くない?お腹は?」


手は?脚は?背中は?と質問責めする僕に、大丈夫、と一言で制裁される。
軽く取り扱われたことに対し、若干のショックを覚えたが逆に大丈夫なんだ、と安堵の溜息が出る。


「ごめんなさいね…」
「え!?友達として、当然だよ?」


「そう…」


どこか嬉しそうしかしどこかに哀しさも内包した微笑み。


目と同じだ、と僕は思った。
目も嬉と哀を含み遠くを見つめているのだ、どこか悟ったような瞳で。


何となく、その目や微笑みを見ると僕は速水さんを遠い人のように感じてしまうからあまり好きじゃなかった。


近くの人間が、遠いものに思えることほど辛いものだと僕は思う。
元から遠い人がより遠くなったところで然程変わらないけれど、身近な人が遠い人になると急に遠のいて行く感じがするのだ。


しかし、どこか聡明さも醸し出している目だとも思う。
速水さんのその知力を上手く表現したような微笑みだとも思う。


けれども、どうしても好きになれない。


僕はそこまで考え、ふるふると頭を振るった。
あまり、苦手意識みたいのはいけない。


「朝霞くん」
「えっ、あ、何?」


突然呼ばれ驚いたことで、何だかしろどもどろになってしまった。
変に怪しまれてしまうかもしれない。


「……?
あの、速水さ…」


声をかけた途端、目の端にちらりと何かが写った。
その何か、に思わず赤面し速水さんとは反対の方向を向く。


その何か、とはキャミソールの肩紐なのだが、肩を滑りヒラヒラしたフリルのついたもう一つの肩紐が露わになった。


「…なに……ぁ!」


小さな声で驚きを示し、僕とはまた反対方向に寝返りをうち戻す速水さん。
恐らく気づいたんだろう、元気になったらバスケットボール投げつけられるかもしれない。


多少の照れと共に、速水さんが元気になり僕にバスケットボールを投げつけている姿を想像し、一人冷や汗をかくのだった。




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