天使になんかならないで(ツナ誕)

*誕生日記念のお話だけど妙にくらい










天使になんかならないで








大きな川を挟んで、土手に赤い赤い血のような彼岸花がたくさん咲き誇っていた。

赤い花は、見渡す限り川のほとりにどこまでも続いている。


「ひばりさん、船があります、来てください、こっち」

沢田綱吉が、彼岸花の中を踊るみたいにくるくる回って雲雀を呼ぶ。
随分はしゃいだ様子だ。

屈託のない笑顔で、川を指差す。

彼の言う通り、小さな船がくくりつけられて、ぷかぷかと揺れていた。

「来てください、ほら」

船にまで続いている細い板の上を、相変わらずはしゃぎながら沢田綱吉は渡ってゆく。

「ちょっと!危ない」

雲雀は手を伸ばしたがそれを見ようともせず、どんどん渡ってしまう。
くるくる、くるくると、楽しそうに回って。


「ねぇ。何してるの、きみ」


おちてしまう。

この子は鈍臭い子なのに。


沢田綱吉は危なっかしい足取りで、ふらふらと小船のあたりに辿り着く。

「、待ちなよ」

「早く、早く。俺もう先に行っちゃいますよ」


細いからだが迷い無く小船に飛び降りると、それを繋ぐ紐がしゅるりと解け、船は見る間に遠ざかってゆく。


「小動物…」

「待って」

ほとりで呼んでも、沢田綱吉は笑って手を振るだけ。
いつもの優しい、天使のような微笑みで。

足が竦んで動けない。




消えた船が残した軌跡に、赤い赤い彼岸花が点々と散っていた。







「起きて、ひばりさん、ひばりさん」

は、と目蓋をあげたら、クリリと大きな琥珀が雲雀を見つめている。

「ほら、12時」

嬉しそうに時計を雲雀に見せ付ける沢田綱吉は、雲雀からの何かしらの言葉を待ち受けているようだ。

「………」
「10月の14日です」
「…………」

夢。
へんな夢。


赤ん坊の誕生日会で沢田家に顔を見せた雲雀はそのまま沢田綱吉の部屋のベッドでついうたた寝してしまったらしい。

「ひばりさーん?」


考え込む雲雀に、愛らしく小首をかしげる沢田綱吉の側頭部を、ぐい!と手のひらで押してやる。

「なぁっ、なんですか!」
「人が呼んでるのに何で勝手に船に乗るんだい」
「ふ、ふね……??」
「僕の夢の話」
「そんなのっ俺知らないじゃないですかー」


ムカついたから両方のほっぺたをつまんで、ぐにぐにむにむにしてやった。

「ひい〜、イテー!なんでオレ誕生日になったと同時にいきなりヒドい目にあってん……、ひばりさん…?」

力いっぱい、ギュッと胸に小動物のあたまを抱き締めたら、洗い立てのシャンプーの香りがした。

「あの…どうしたの?…ひばりさん」



沢田綱吉は、とても柔らかに笑う子だ。
鈍臭くって、儚くて、優しすぎて、

時折、雲雀を不安にさせる子だ。


「僕がきみを呼んだら、すぐ戻ってきてよ」
「へ」
「船になんか乗らないで」

それだけ言ったら、沢田綱吉がこくりと唾を呑んだのが伝わってきた。

「はい」
「……」

なでなでと、小さな手が雲雀の背を撫でる。

「オレ、なんだかひばりさんのペットみたい」
「光栄だろ」

ほう、と息をついたら、雲雀はいつもの自分を演じる気になった。

「小動物。誕生日おめでとう」


ひとつ年をとったらきみは。
少しは狡さも醜さも身につけてくれるかな。
神様に嫌われるくらいに。




だから、今年もこう願うのだ。




天使になんかならないで、と。








おわり








沢田綱吉の内なる煩悩をまだ知らない雲雀先輩のお話。
汚れのない綱吉はいつか神様に連れていかれるんじゃないかと怯えている。

こんなに誕生日小説らしくない小説はないだろうな…





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