0427


いいです、と言ったのは確かに僕だ。
だけど、だけどこんなかんじになるなんて想像もしてなかったんだ。

「し、師匠」
「・・・駄目か?」
「いや、あの、駄目じゃ、あの」

目の前に師匠の顔がある。
仰け反った背中が辛い。
いつも師匠が座っているデスクに両腕が張り付けられて、足が浮く。
しんと静まった相談所に、二人分の息遣いが聞こえる。
いつもはにやにや余裕綽々に笑う師匠がそのなりを潜めて、部屋の光で顔が薄暗く見えない。

「なんだよ、お預けか?」
「し、師匠・・・どうしたんですか、急に」

キスしたい、と言われたからいつもの反射でいいですよ、と言ってしまった。
でもいつもは場所だって弁えてるし、ましてやここは相談所だ。
師匠は少し唸ってから、手早くボタンを外していた手を止めた。

「たまにはいいだろ?なあモブ、ちょっとだけ」

首元にキスを落として、師匠はそうのたまう。
髪の毛がくすぐったい。
な。モブ。
頼むよ、と囁く声が今までに聞いたことのないくらい熱っぽくて、背中あたりがぞわりと粟立つ。
本当に、いつもの師匠らしくない。
いつもの師匠だったらもっと余裕そうなのに。
はあ、と師匠の口から漏れ出た息がいつもの師匠じゃない感じを一層感じさせて、これは何と言うか・・・何とも言えない感じ。

「・・・い、いいですよ」

発した言葉が思いの外「そういう」熱を孕んでしまって赤面する。
師匠はぴたりと僕を見つめて、僕の髪をわしゃわしゃ乱暴に撫でてから「かわいいな、このやろう」と照れ隠しにか笑った。



「っ・・・ん、」

鼻から抜けたような声が漏れた。
舌の腹あたりを擦り合わせる。
舌先を吸われて、強制的に唾液を飲み込んだ。
こういう時、目を開けちゃいけないのは経験済みだ。
ばっちり師匠と目が合ってしまうから。
前は閉じるタイミングを失って、「目・・・疲れないのか?」と心配されるまで目を開け続けてた。
シャツから滑り込む手が冷たい。
師匠に触られたところは変に感覚がおかしくなって、自分が自分じゃなくなるみたいな感覚が、少し怖い。

「・・・ししょ、ん、さむいです」
「今だけだろ」

薄目を開けると見慣れた部屋で師匠はあけすけに言って頬にキスした。
・・・アンタね。
鳩尾からするすると上に指が伝上がっていく感覚に、喉がひくつく。
そこを舐められる度女の人じゃないのになあ、といつも思うけど妙な気持ちになる僕も大概なんじゃないかと思う。
意識してしまうと皮膚がちりちりと引っ張られるようになる。
舌のざらざらした感じが余計に目立ってしまって、お腹の上あたりからじわじわ追い詰められる。
宙ぶらりんなのも癪なので、膝を師匠の太腿のつけ根に押し付けた。

「っ、・・・おいこら」

びくりと師匠の肩が震えた。
・・・なんかかわいい。
そのまま膝をぐりぐりと押し付ける。
師匠の熱が布越しに伝わる。
なんだか師匠も僕と同じなんだなあ、と思って調子に乗ると師匠が小さく喉の奥で唸った。

「僕ばっかり、じゃ、不公平です」
「・・・いつの間にそんなん覚えたんだよ」

師匠のせいですよ、と囁けば師匠は珍しく目を泳がせて「持たないからやめろ」と膝を退けた。
手が自由になったので、少しむくれながら師匠の髪を触る。
師匠の髪の毛は特別柔らかい訳じゃないけど、するりと指の合間をすり抜ける感じが好きだ。
カチャカチャとベルトを外される音がいやに響いて、急に生々しさが蘇ってきてはっとした。
慌てて師匠の手を握る。

「し、師匠なにを」
「え?そりゃあ・・・モブくんよ、お前煽っておいてそりゃないだろ」

焦った僕の声に、師匠はなにを今更とばかりの表情。
ちょ、ちょっと待ってくださいよ。

「・・・デスクの上ですけど、ここは相談所ですけど、師匠」
「確かに・・・この体勢は流石にあちこち痛いよな。あ、マッサージの時に使う簡易ベッドが」
「そうじゃないでしょっ」

僕が身を起こして師匠を見下ろす。
師匠は僕のお腹の上でちょっと口を尖らせた。
ちょっとだけって言ったくせに、嘘つき。

「じゃあどうすりゃいいんだよ?」
「ど、どうって・・・」
「どうすんの」
「っあ、」

つつ、と師匠の手が内腿を撫ぜてきて、声がひっくり返る。
なあ、と楽しげなのが恨めしい。
どうするのって、どうってそんなの。
頭はふわふわして、心臓はばくばくいっていて、ああ師匠って狡いことばっかり。
僕が言いたいのはそうじゃなくって、心の準備っていうか・・・ああ、もう。

「・・・この体勢、背骨が痛いです。ししょう」
「おっ、正直だねえ」

にやりと笑う師匠。
いつの間にかいつもの師匠だ。
恥ずかしい思いをしてるのは僕だけ、みたいな。
さっきまでは違ったくせに。
・・・なんか、それはそれですごく、気に食わない。
前が全開になっている僕とは対照的に、かっちり着られている師匠のシャツの襟元を引っぱる。

「ぐえっ、な、んむ」

師匠の驚いた声を飲み込む。
舌を押し込んで口と口をくっつける。
たどたどしく上顎の裏をなぞる。
師匠がいつもすること。
ん、と師匠の喉がくぐもって動く。
師匠の手が慌ただしく僕の腕を掴んだ。
唇を舐めるみたいにして一旦離れると、師匠は僕をぐいっと引っ張りあげて立たせた。
今度は師匠が僕にキスする。
片手は頭を支えるようにして、もう片手は腰にまわって体がくっつく。
必死で舌を伸ばす。
水っぽい音が漏れ出た。
頭がふらふらする。
息、息をしないと。
急にバランスが崩れて、うわっ、と思った時にはボスンとソファになぎ倒されていた。
僕にのし掛かった師匠は、乱暴にネクタイを解いて床に投げ捨てる。
僅かに肩で息しながら口元を拭った。

「・・・・・・今のはモブが悪い」

モブが悪いんだからな、と念を押すように低く師匠が呟いて唇を舐めるのを見て、調子に乗りすぎたことに僕は今更気づいた。





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続かない…
いちゃいちゃするふたりも見たい。
にやにやしない新隆さんが書きたかったんだけどモブくんがノリノリに(笑)
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