03.温かいそのワケ
信じ難い手配書を目にした後、誰もウロつかないであろう深夜に下町に帰ってみれば、箒星二階に居るはずの弟の姿がない。
既に出た後だったかと肩を落として、早朝、ノール港へと向かった。
まさかここで我が弟に会うことになろうとは誰が予想していただろうか。
若干溜まっていたことをぶちまかした気もするが、弟の安否も確認出来た。
それに、仲間であるカロルやおっさんことレイヴンとも色々話が出来たので、私は一度宿屋を出てノール港を再び散策していた。
「ユーリ、です?」
私に声を掛けたのは、桃色の髪を持つ高貴な女の子。
ユーリの名前を呼んだということは仲間のひとりなのだろう。
『お、おぉ!』
一瞬躊躇った後、ユーリの声真似をしてみたが、女の子は再び怪訝な表情をする。
さすがにユーリだとは思わないか。
『あーごめ…』
「あの…ユーリ…どうみてもその格好は女性ものに見えるのですが…」
『あぁ、これ女装』
男にあるはずのない本物の胸を持ちながら女装って。
咄嗟な嘘とはいえ自分に絶望した。
「え、えええぇ!?」
けどびっくりしているということは、信じてるな、これ。
『ま、とりあえずその荷物持ってやるから貸せよ。宿屋まで行くんだろ?』
再び怪しまれる前に彼女が持つ重そうな紙袋をひょいと取り上げた。
「あ、はい…あ、ありがとうござい、ます?」
『ははっ疑問系』
―――――――
――――
少し歩いてそろそろいいだろうか、と。
どうしてもひとつ、聞きておきたい気になることがあった。
『なぁ、』
「はい?」
『あの、オレの手配書のことなんだけどさ…』
彼女には申し訳ないが、私は少しカマをかけたのだ。
「ユーリの手配書に関しては本当に申し訳ないと思っています…わたしと一緒にお城を出ることになったから…」
『お城………』
最初に会った時から高貴な女の子だとは思っていたけれど、やっぱりお城のお姫様なんだ。
「けれど、外の世界に出ることで、お城の中じゃ絶対に経験出来ないことも出来ています。声も聞こえます。そして、ユーリや皆にも出会えました。わたしは幸せ者です。…ってごめんなさい、ユーリには一番迷惑をかけていますよね…」
『迷惑だなんて思ってないよ。…そっか、そういうことか』
むしろお礼を言いたいくらい。
ユーリが下町を飛び出したのも、
指名手配となっていたのも、
昔より穏やかに笑うようになったのも、
それがわかっただけで十分だった。
「急にどうしたんです?」
『さー着いた!じゃ、オレはここまでかな』
持っていた紙袋を渡してドアを開けてやると女の子は首を傾げた。
「ユーリは宿屋に入らないんです?」
『うん、入らない』
『ねぇ、お嬢さん』
「え?」
未だ訳のわかっていない女の子の耳元に口を近づけた。
『不器用なユーリを宜しくね。ユーリは何でもひとりで解決しようとする奴だから』
「ユーリ?」
『それじゃあね!』
温かいそのワケ
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