「ありがとう」と「さようなら」


二人は幸せだと久々に感じた。
彼の病状が悪化もせずに、食料も裏に置いてあった果物などの食材があって困らなかったし、いつも二人が近くに感じられた。
小さな頃と同じになれたのだと。

だがやはり、幸せがやってくる変わりに不幸というのもやってくる。

二人の逃亡生活も一年、彼が、ベッドで寝たきりになってしまった。

「…ごめんね、」
「良い。何も言うな」
「…シズちゃん」

強く手を握ると外が騒がしくなった。
二人して「もう終わりか」と目を細めた。

「好きだよ。愛してるよ、」
「俺も愛してる」

静雄は小さな草の指輪を、彼の左薬指へとはめた。

「今頃プロポーズ…?遅いよばか」
「はは、悪かったな。指輪はこれで勘弁な」
「なんだって嬉しいよ…」

ニコリと笑った彼に静雄も笑うと、キスをする。角度を変えて何度も。

「愛してる、ずっと」
「ああ、」

ゆっくり閉じられてく瞳にもう一度キスをすると、ドアが勢い良く開かれた。

「平和島静雄!たい……」

警察達は動きを止めた。
もちろんそれもそうだ、誘拐された男の瞳に愛おしそうにキスをして居るのだから。

「…平和島静雄、だな」
「ああ。殺すなりなんなりしたら良い」

決して警察の方には振り返らず、彼の黒い髪を撫でながら、「殺すならここで殺してくれ」と付け足して。

警察は同様を隠せないまま、静雄へ銃を向ける。

「愛してる。」

そう呟いた静雄の身体に銃弾が打ち込まれた。















それから、その事件は全国のニュースとなり轟いた。そして新たに分かった事は、囚人は誘拐をして居なかったのと、その病人とは恋仲だったと言うこと。
毎日紙飛行機を飛ばして愛を誓いあった手紙が見つかった。
二人の遺体は一緒の棺に入れられた。
警察たちは皆、民族差別などの隔たりを無くすことを提案し、大統領は市民達に聞く耳を持たなかったが時期に変わった大統領が廃止を命じ、全てが自由になった。二人の囚人と病人のおかげで。

囚人の中に居たものは愛する妻や子に会いに行き、世界は平和になった。




そんな日から百年後の秋。

「…あれ?」
「…ん?」

大学の中で黒髪の男と金髪の男が出会った。黒髪の方はじぃ、と金髪の男を見てから小さく「シズちゃん?」と言った。

「んだよその名前」
「え、あ…いや、なんだろ?」
「わかんねぇ奴」
「あっ、ね!君、これからお昼食べない?俺お腹減ったんだけどさー」
「……」
「…なに?」

次は金髪の男が黒髪の男を見つめ出す。

「何処かであった事あるか?」
「俺もそう思うんだけど…変かな」
「変かもな」
「ははっ!君、名前は?」

幸せな二人が幸せな世界で巡り合う。

「平和島静雄、」

これからは何の隔たりも無い世界で、

「俺は折原臨也。宜しくねシズちゃん」

また紙飛行機を飛ばそう。


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