さよなら、紙飛行機


しとしとと雨が降っていた。

「折原さん!?折原さーん!」
「見つかった?」
「いいえ、こっちには居ません」

それは止む事をしらない。

「何処に行ったのかしら…」
「点滴や酸素ボンベとかも全部外して行ったみたいですし…」
「ただ、廊下が水浸しですね」
「……もしかして、」

抱えて走る、丘の上。

「ニュースでやってたじゃない?囚人場の囚人の男が逃げたって」
「ええ…聞きましたけど…あ」
「近くだし、囚人に傘なんて無いじゃない?」

身体が衰弱して行く、

「…折原さん、誘拐、された?」
「かもしんない…私たちも警察に言いましょ」
「ええ!」




「…大丈夫か?」
「うん。へいき、今頃大騒ぎだろうね?警察とか動いてたらどうしよう」
「お前は誘拐されたって見られてんじゃねーのか」
「はは、かもね」

静雄は彼を姫抱きのようにして身体を密着させて走る。二人がかつて住んで居た家に。
雨の中、身体がこんなにも触れ合うのは何十年ぶりだろうか。
この空間だけでも幸せだった。

走る度に泥水が跳ねる。
裾が濡れたが気になどしなかった。

あと少しで着く。

二人になれる場所が。

















「つまり…折原さんは誘拐された、と」
「そう考えるのが妥当です」

病院では警察がやって来て、部屋をチェックしていたが彼に関するものは出ては来なかった。玄関からの水は彼の部屋で止まり、そしてまた外に続いている。

「そうだな…確かにこの状況はそう考えるしか無いです。よし、囚人の居場所を突き止めるぞ!最悪殺したって構わない。…どうせ死ぬ奴だしな」

そう言いながら警察は外に飛び出した。






しとしと、

二人が着いた家にベッドに彼を寝かせると棚を漁る。小さなログハウスで、中はベッドとタンスにテーブルに暖炉があるだけだった。
とりあえず拭く物と着替える物を棚から取り出すと彼の身体を拭く。

「…来ちゃった、ね」
「ああ。…もう戻れねぇぞ」
「良いよ。そんなの、」
「苦しく無いか?」
「うん、へいき」

服を脱がして新しい服に着替えさせる。そして久方ぶりのキスをすると互いに笑みを浮かべて笑い合った。

やっと自由。

やっと自由になれたんだ。

見つかるのは時間の問題だったが、それでも静雄たちにとっては幸せな時間だった。

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