紙飛行機


暗い部屋に閉じ込められて、自分の恋人が病院に入院をしているのだと知らされたのは、この囚人場に来てから二日後の事だった。彼が昔から身体が弱い事を知っていたが、家事の手伝いの途中に倒れたのだと彼の家族が教えてくれた。静雄は民族差別でこの囚人場に入れられ、酷い仕打ちを受けて来た。そしていつか自分たちが死ぬのも知っていた。生きてここからは出られないのだと。

何日か経ったある日。
あの柵の向こうに恋人が立っていた。

「なんでお前…っ」
「あぁシズちゃん。久しぶりだね」
「お前、入院中なんだろ?良いのかよこんなところに居て」
「シズちゃんも良いの?」
「あ、ああ。今は休み時間だからな」
「そっか」

柵越しに見た恋人は、前よりも肌が白く痩せた気がする。汚れた身体では触れられないとグッと拳を握ると、恋人は柵から手を伸ばして静雄の頬に触れた。

「汚れる」
「シズちゃんは汚れてないよ」
「触るなって、汚くなるぞ」
「良いよ。触れたいんだから」

やはり耐えきれなくなり、静雄は恋人にキスをした。柵が少し顔に当たって痛かったが気にはしなかった。

「この時間、休みなんだ」
「ああ」
「じゃあ明日もこの時間に来るね。手紙を書いて」
「…俺も書く」
「じゃあ紙とペンも一緒に持ってくるよ」
「ん、頼む」

ピーと笛が鳴り響く。
「じゃあ行くな」という静雄に、恋人は腕を伸ばしてキスをした。「また明日ね」と言い残して、

「ああ」

短く返事をした静雄は、恋人に背を向けて中に入って行く。
光がない場所。
鞭の音と男の悲鳴。
それでも静雄は、明日も恋人があそこで待っていてくれるなら頑張れる気がした。
日々思うのは恋人の姿。
病気で苦しむ彼を、早くここから抜け出して自由にさせること。
いつか、二人で死ぬその直後まで。

(臨也、)
(死ぬんじゃねーぞ)

自分より先に死んだら許さねーぞ。と心で思いながら一日の労働が終わると無理矢理牢に閉じ込められる。
たった少しの時間に寝て、起きたらまた労働の繰り返し。

そして、小さな休みの時間に静雄は寝る時間も惜しんで手紙を書く。
愛する人と唯一繋がる紙飛行機。

(もっと)
(もっと遠くに飛ばせたら良いのにな)

二人が自由になれる場所に。
誰も邪魔出来ない場所に。

そうして今日も紙飛行機を折るとあとの十分間を眠りに費やした。

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