春がやって来ればまた憂鬱な時間と言うのがやってくる。キラキラした目で校門を通る新入生。きちんと制服を着て、楽しそうに登校するものもいれば、緊張している者までいる。
もう一度いうけど、春がやって来ればまた憂鬱な時間がやってくる。それもそのはず。俺はまた一年やり直しだ。あのシズちゃんが先輩となるのが酷くむかつく。

「…はあ」

ため息も出る。
さすがに高校を卒業しないと、色々と不便なのがこの世ってもんで。だから仕方なく、もう一度、一年をやり直し。つか俺が落ちてシズちゃんが上がるとか意味わかんない。テストだって百点。文句無しじゃん。
あ、もしかして灯油が入ったドラム缶のせいかな?
っち…担任め。いつか潰してやる。

「臨也、体育館集合だって」
「やあ新羅。二年オメデトウ」
「棒読みになってるよ?」
「もう体育館に行くも何も生き晒しだよ。教室に居るから行ってて良いよ」
「全く。まさかあの折原臨也が、一年やり直しとはね」
「嫌味かい?」
「まあそうかも」
「死ね」

新羅と別れてから誰も居ない教室に入り、黒板に書いてある席に座る。ここ、俺が入学した時と同じだ。
少し空いた窓から暖かい風と桜吹雪が舞う。遠くで校長の声が聞こえた。ベラベラ何喋ってんだか。
シズちゃんによって壊された硝子も、俺がナイフで傷付けた壁も、全部綺麗にされていて元通りだ。

(憂鬱だ)

また一年のやり直し。シズちゃんが居ないから授業も集中出来るかな。このクラスでシズちゃんみたいな奴が来ませんように。
だんだん眠くなって机に伏せているといつの間にか睡魔にやられて眠ってしまった。遠くでは校歌が聞こえて来た。













「……原、」
「ん…」
「折原臨也!全くお前は体育館に来ずに何やってんだ」

次に目を開けたら、むかつく担任の声が響いて。ついでに周りも騒がしい。

「あれ。もう終わったんですか」
「今、自己紹介してたとこだ。ほらお前も言え」

寝起きでそれ言う?
まあいいか。と適当に自己紹介をすることにした。

「折原臨也です、好きなものは人間。嫌いなものはシズちゃん。宜しくお願いします」

我ながらなんていう自己紹介だろうな、なんて思いながら席に着くと隣の女子たちがヒソヒソと何か話してる。なんだろ、まあいっか。
また眠くなってウトウトしながら机に伏すと担任が手に持つ名簿表で頭を叩かれた。何あれ以外に痛い。




一週間もすれば通常授業がやって来て、俺は憂鬱ながらもノートにシャーペンを走らせる。だいぶクラスの奴らも慣れ、女子たちは当たり前かのようにスカートを短くしているし、男子も着崩してる。

「ねえ。何で学ランなの?」
「制服買うのめんどーだから?」
「人間好きとか凄いねえ」
「そうかな」
「シズちゃんて誰?」
「二年のやつ」
「もしかして噂の平和島静雄?」
「そーそ」
「へえ。てか留年てほんと?」

退屈だ。ほんと、退屈。
いい加減に質問攻めに飽きてきた。これなら目の前にでもシズちゃんが居たらちょっかい出せるのに。

(ああ。)
(なんだ、シズちゃんが傍に居て欲しいみたいじゃん)

「……」
「ねえ今日さ、どっか行かない?」
「いや用事ある」
「えー」

つまんないつまんない。
こんな人間は好きじゃないよ。もっと面白い人間は居ないのかな。

(今日、シズちゃんの机の中に教科書じゃなくてナイフつめたし)
(もうそろそろ来るかな?)

それでいていつも見たく怒鳴り散らして。俺のこのつまらない状況から助けてよ。

「いーざーやああああァ!手前え!俺の教科書どこにやった!」
「やあシズちゃん!授業中なのにご苦労なこったね」

ああこれこれ。
俺の日常はこうでなくっちゃ。
普通の授業なんかつまんない。君をちゃかしながらの授業が楽しいんだ。

「平和島!ここ一年の教室だぞ」
「ああ先生。折原臨也を一発殴ったら帰りますから、つーことで周りの為にも殴られろ臨也あァ!」

机が壊れる音。
周りの悲鳴。
シズちゃんの久々の顔。

「ねえシズちゃん!」
「ああ!?」
「来年は君も留年してよ」
「はあ!?んなのするわけねえだろ!」

良いじゃんしてよ。
だってそうしたら俺たちは同じ学年になって、俺のつまらない日常をシズちゃんが埋めてくれるでしょう?
先に君が卒業するなんて冗談じゃない。あんな奴らの中に居るなんて絶対にごめんだ。

桜吹雪を見やりながら廊下を走る。
次にこの桜を見る時はもう一個上の階から見るかな、今度は君と二人でね。



(憂鬱だ)
(君が居ない教室がとても)


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