「……!あ、れ」

折原臨也が目を覚ますと見慣れた世界が広がっていた。
自分は一度死んだはず。幽霊か何かなのだろうか、と身体をまさぐると確かに触れられ、耳に手を当てたとき「ああ…」と小さく声を溢した。

「…移行、できたんだ」

サイケの身体に自分がいる。そのようにプログラムをしていたが、それは自分が死んだ後でしか出来ず、誰かがパソコンを開き、エンターボタンを押さなければいけなかった。
今ここに居ると言うことは、誰かがパソコンを開きエンターをご親切にも押してくれたのだろう。

部屋を出ると平和島静雄が立っていた。階段を降りると慌てたような彼に一言。

「ははっ、凄くない?俺ってばまだ生きてるよ」

そんな彼に平和島静雄は驚いたような顔をしていたが、そんなのを尻目に折原臨也は彼の頬に一発、ビンタを食らわせた。

「…いざ」
「サイケに何した」
「……」

嫌でも分かるサイケの感情。
平和島静雄に抱く想いと、酷く怯えた感情。
折原臨也は二人に何があったのは分からないが、この身体はサイケの。嫌でも彼の感情が流れてくる。ぐるぐると、ぐるぐると。

「…頬も痛いしあちこち痛いし。サイケに何した」
「……」
「…サイケに何したの」

平和島静雄は嘘偽りなく全てを話した。サイケにキスをしていたのも折原臨也の代わりだったのだと。挙句にさっき、謝り続けるサイケを二回殴ったことを。自分のむしゃくしゃした感情を、サイケにぶつけたのだと。

「…アイツが、代わりだと言った時…頭に来たんだ」
「それって少なからず、君がサイケを好きだからでしょ?」
「…サイケは?」
「分かんない。でも心の何処かでサイケの気配を感じるんだ」
「そうか」

悲しむシズちゃんなんてシズちゃんらしくないね。といつもみたく笑ってやれば平和島静雄も安心したかのように折原臨也にキスをしてベッドへと寝転んだ。























ちゅんちゅん、と小鳥が鳴く声に目を覚ますと隣に眠っていた折原臨也の姿はない。二人揃って神出鬼没だと思いながら部屋を出ると愛用のソファーに折原臨也は座っていた。

「あ!シズちゃんおはよ!みてみて、パソコンが開けるようになったんだよ!」

その口調は紛れも無くサイケのもので、昨夜の折原臨也は夢だったのか。それとも一度だけ会いに来てくれたのかと思ったが別に悲しくは無かった。
サイケがいる。それが何だか安心できるものになっていて。

「シズちゃんーサイケが生きてて良かったとか思っただろ?やだなあ甘いねぇ」
「あ?んだ臨也」
「この身体は二人でひとつ。そんな二人から愛されてるシズちゃんは贅沢者だね」
「馬鹿か」

ここで、サイケになるときは瞳が淡くピンクになり折原臨也となるときは瞳が赤く写り変わるのだと気付いた平和島静雄は、一発折原臨也を殴りにかかる。

「やめてよ!元はサイケの身体なんだからね」
「別に臨也なら殴って良いだろ」
「ふざけんな!」

わーわーと追いかけっこをし、また池袋で折原臨也と平和島静雄の追いかけっこに「実は折原臨也は死んで無かった」などの噂が流れた。

「あれ。サイケくんと静雄?」
『…なんかいつもの臨也と静雄みたいだな』
「確かにね…」

「あ、やあ新羅!助けてよ。シズちゃんってば俺の家から延々と追いかけてくるんだよ。あり得ないよね」

岸谷新羅とセルティに声をかけていつものように饒舌な彼に、二人して時が止まったような顔をしている。折原臨也が目の前にいる。そう実感したんだろう。

「捕まえたぜえ臨也ァ。手前、居なくなってた一年分殴らせろや」
「何そのジャイアニズム百パーセント」

平和島静雄も彼を「臨也」と呼んでいる。わけも分からなくなっている友人を尻目に折原臨也はここぞとばかりに、

「いっ…うわわ!シズちゃん力持ち!俺持ち上げてるよ!」
「あ、サイケか」

ぷらーん、とフードを捕まれていた彼だがサイケだと気付いた平和島静雄は優しく地面に下ろしてやった。

「し、静雄…」
「おぅ新羅にセルティ」
『い、臨也とサイケくんが居るのか?』

セルティの言葉に平和島静雄の変わりにサイケが「うん!」と頷いてみせた。

「と!いうわけでまた俺は逃げようかな。じゃあね!新羅に運び屋」
「なっ、いつの間に…待て臨也あああぁ!」

いつもみたく追いかけっこをし出した二人に、友人は静かに微笑みあった。

「なんだ。良かったじゃないか」
『ああ。そうだな』
「折原臨也は死なない、て感じかな」
『アイツが病死で死ぬような奴じゃないからな』
「そうだね」

空を見上げると今日も晴天。一年前に折原臨也が亡くなった時と同じように。

音と電子と、0の君
音を教えてくれた君。
電子を越えて会いにきた君。
また0から始まる君。
臨也くん 俺は 幸せです。

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