匿名様リクエストで、「-10pに満たない恋」の続き
かんかんかん、と電車の音に目を覚ますと時刻は朝六時。
青森にやって来て、このマンションで生活してから一ヶ月も経った。やはり何処に居ても赤目は不吉だと言われて来たが、シズちゃんは「気にするな」と笑みを浮かべてくれる。相変わらず、リスカは治って居ないのだけれど、「ゆっくり治して行けば問題無いだろ」と言ってくれるので、俺も時間をかけてゆっくり治して行こうと思う。
「ん…?」
「ああ、シズちゃんおはよ。顔洗って来ちゃってね。ご飯作るから」
「ん、ああ」
ふあぁ、なんて言いながら欠伸をひとつ。ベッドから起き上がるとそれぞれの準備をし出す。俺は朝ごはんと弁当を作って、その内にシズちゃんは着替えたり顔洗ったりする。もうこれは決まりとなって居た。
「臨也、ネクタイ」
「あ、うん」
「いつも悪ぃな」
「良いって、」
そして日課なのは毎日、シズちゃんのネクタイを結ぶ事だ。
シズちゃんはネクタイが結べないらしく、今までは会社の人に結んで貰っていたのだと言う。はは、不器用らしいよね。
「はい出来た」
「おぅ、サンキュー」
「どういたしまして」
ネクタイ結んでると、その…新婚さんみたいだよね。シズちゃんの前ではそんな事言わないけどさ。
準備も出来て、朝ごはんを二人で食べてから玄関までシズちゃんを見送る。
「じゃあ行って来るな」
「うん。行ってらっしゃい」
手を降りながらドアが閉まると息を吐いてテーブルにある食器を片付ける。
シズちゃんと出会った頃よりもグンと距離を感じられて幸せだ。どんなに周りを否定してもシズちゃんだけは俺の味方で居てくれる。中学からずっと。
片し終え、食器も洗い終えるとタイミングよく家のインターホンが鳴る。まだ九時だっていうのに誰だろ、と思いつつドアを開けると見知った顔がそこにあった。
「お。まじで折原じゃん」
「だろだろ?」
「目良いじゃーん。折原好きだから見つけられたんじゃん?」
「きもちわりー」
なんだなんだ。
(な、んでコイツ等…)
確かに目の前に居る四人は、中学の時にイジメて来た奴らだった。何故彼らがこんな田舎の方まで来てるんだよ…っ。
「失礼します」
慌ててドアを閉めようとしたが、足が挟まり閉められない。
「何なに?せっかく会いに来たのに歓迎無しかよ」
「つか相変わらずきめぇ赤目だな」
「帰って、くれない?」
「帰るー?良いじゃん入れろよ」
「やめっ」
中に侵入しようとするコイツ等を止めようと心見たが、俺一人じゃ無理で簡単に開けられて中に入られる。
「ちょ、やめてよ!」
「やめてだァ?お、なっかなか綺麗じゃーん」
「寝室もみっちゃおー」
本当、やめて。
俺とシズちゃんの場所に入らないで、
やめて。やめてやめてやめて。
なんでコイツ等が青森に居るの。なんでここに来ちゃった、の。
ぐるぐる考えながら床にへたり込むと、目の前でガシャーンと硝子が割れる音がする、
「おおっと。ごめんねえ」
「うわ、ひでえー」
「あ、またすべっちった」
もう一つの皿が割れて、破片が飛んで腕や手をかする。
(ごめん、ごめん、ね)
せっかくの家…壊れてくよ。
ごめんなさい。
「何なに?同居でもしてんの?つかさっき平和島出て来てたよな」
「お前らデキてんの?」
「一緒のベッドとか気持ちわり」
「…帰って。」
「あ?」
「帰ってくんない?シズちゃんは関係ないだろ、良いから帰れよ」
このまま引き下がれない。シズちゃんを悪くいうものなら許さないし、俺たちの場所が崩壊されてくなんて持っての他だ。
「はァ?何言っちゃってんの」
「これまじカップル?」
「平和島も平和島だよなァ、あいつホモかよきめぇ!」
「だから、シズちゃんは関係無いって言ってるだろ。やだな、君たち一人じゃ何も出来ないからって集団リンチなんて。今時古いよ」
ああムカついた。
シズちゃんの悪口なんて許さない。
「さっきからきめぇし喋んなよ!」
ガシャンガシャン、と食器が割れて椅子が倒れる音。
「池袋に帰ったら気を付けたら?カラーギャングとか動いてるしね」
「はァ?」
「早く帰れよ邪魔だな」
「赤目の奴がでしゃばんなよ!この化物が!」
「だったら帰ったら?こんな化物の傍に居たら呪い殺されちゃうかもね」
「うっぜぇな!」
うん。これで良い、完全に怒りが俺に来てるからシズちゃんを話題に出さないだろう。まあ池袋帰ったらヤクザ達回して死ぬ思いさせてやるけど。
「っ…」
「さっきから誰に口聞いてんだあ?」
「おらよ」
肩を押されて倒れ込むと見計らったように足蹴りが入る。
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