かたん ことん
あ みて おとうさん ぼくね てすとでひゃくてん とったんだよ
かたん ことん、
ねぇ おとうさん なんで なくの?
ねぇ おかあさん なんで なんで
かたん
ないふ を もってるの?
「まさか死ねないとか言わないでよね」
「アンタ…こうやって殺してたわけ?」
折原臨也は同じクラスの女子と屋上のフェンスに立っていた。そろそろ夕日も落ちてくる。
「君、余裕だよね。そりゃそうか、屋上のあのドアの前に数人待機してたもんね。でもさ、なんで来ないんだろう?」
「アンタ…まさか…」
「やだな。知らないよ、それに知るよしも無いじゃないか。さて早く死んだらどうだい?ずっと望んでただろう?」
皮肉に笑う臨也に女子生徒は焦るように唇を噛み締める。
「昨日ブログに書いてたじゃないか。『あたし死にたい。てか死ぬし』て。まさかあんな誰もが見る場所に自殺予告して生きるわけじゃないよね?」
「つか…そんなの気休めだろ」
「あは!心配されたかったんだ?あんなにずっと書いてたのに」
「……」
「じゃあ死にたくなるような話をしよう」
ニヤリと得意げに笑った彼に、女子生徒は背筋が凍る感じがしてならない。
「君の彼氏。実は君が良くつるむ女子と寝たらしくてね?ほらこれ写真。それでその女子は君を友達とは思ってない。つまり二人に裏切られたんだ」
「なっ…」
「君てさそんなに心配されたいなら死ねば?心配されるよ『あの子が死んだ』て、話題ものさ!」
言葉巧みにあれこれと、頭の中にあるシナリオどうりのセリフをぽんぽん口に出す臨也に女子生徒の身体が震え始めた。
「『死ねないくせにうざいよね』『死にたいなら死ねよ』ってさ」
「もういやっ…」
「楽になりたいかい?」
「なりた…」
放心状態に陥った彼女を目の前に臨也はここぞとばかりに耳元で囁く。
「じゃあ落ちな。そしたら楽になれる」
「っ…」
「さよなら。おやすみ」
肩に触れずにそう話して身体を離すと、スラリと彼女の身体は屋上から落下した。数秒でぐしゃ、という音に満足したように屋上を後にする。
すぐに警察が来たが臨也が疑われる事は一切無い。彼の指紋は付かないし、先に警察に手を回しているからだ。
「あ、シズちゃん!君も今帰り?実は俺もなんだー一緒に帰ろ!」
廊下ですれ違うとこに臨也はいつものテンションで声をかけたが静雄は苦い顔をしていた。
「…警察が来て、女子生徒が死んだらしい」
「へえー」
「…っ!また手前えの仕業だろ!」
胸ぐらを掴んで叫ぶ静雄に、臨也は少しビックリしてから大きく笑った。
「そうだよ。俺のせいかな」
近くで見ると綺麗な顔面に静雄はパンチを入れた。真っ赤に腫れ上がる頬を押さえながらもまだ折原臨也という男は笑みを浮かべている。
「ふざけんな!この人殺しが!」
「違うのになあ。君まで俺を人殺しだと思ってるの?」
「あったりめぇだろ!手前えなんか人間の中でも粕だな!手前えが死にやがれ!」
「君ってほんとめんどいよね」
「あ?」
「そういうとこも好きだけど。でも言わせて貰うと俺はアイツらが望んだことに手伝いしてるだけ。平然と笑って奴らが心底殺したくなる。平穏に生きてるくせに死にたいなんて」
「……」
静雄は黙って臨也を見つめ返すと掴んだ手を乱暴に振り払った。
「ねぇシズちゃん。ひとつ例え話を聞いてくれるかい?」
「んだよ」
「とある小さな小さな少年が居ました」
「……」
まるでおとぎ話を読むような口振りで臨也は続けた。
その小さな少年は父親が大好きでした。いつもいつも「おとうさん。おとうさん」と呼んでは嬉しそうに笑みを溢す。
しかしその少年が見てしまったのです。父親が泣いていて母親がナイフを持っているのを。なんでナイフなんか持ってるの?とリビングに入った時には彼が大好きだった父親は血まみれに床に転んでいました。
「おとうさん。おとうさん」
少年は父親の身体を揺すります。
「おとうさん。」
もちろん返事などありません。怒りに狂った少年は次の日に母親を殺しました。そしてその日に少年は死にました。
「以上。おしまい」
「…んでそれが何だって言うんだよ」
「…うぅん。酷い話だな、て思っただけ」
「ふーん」
今までのを聞かなかった事にしようと静雄はそっぽを向いた。自分の勘が外れていなければ今の話は臨也自身の体験だろう。そうなれば臨也は本当に…。
「人殺し」
「あ?」
「俺は人殺しだって構わない。ただね、シズちゃんには愛されたいんだ!」
ね。と笑う臨也に静雄は一瞬でもその笑顔が綺麗だったと思う自分を殺したくなった。
かたん ことん
何にもない。
何処にもない。
かたん ことん
行き場は地獄、
死にたい奴らを見ると、
あの母親を思い出す
憎い、憎い憎い母親の姿を
虫酸が走るぐらいに気持ち悪い
かたん、
きもちわるい。