紙飛行機は君との愛言葉
遠くに丘が見える。その一角には囚人が沢山居ると言われている場所が密かにあった。村の者たちはそこへは近寄ろうとはせず、大きな柵越しに見えるのは悲痛な男たちの叫びや、死体だった。
世も末。この場所では囚人だと言われてはいるが、実は民族差別として入れられた者たちが殆どだ。この場所に必要とされない低級の輩たちや民族争いとして負けた者たちがこの場所に入れられ、無惨にも死んで行く。
「おら、早くしやがれ!」
奴隷として扱う奴らも多いが、殆どは用済みとして殺され、内臓や髪の毛などをむしりとり、裏金にして貰う。なんとも悲惨で残酷な世だろうか。そんな中で、その場所より少し遠くの緑が多い丘の上には病院がある。そこから囚人がいるこの場所までは、十分足らずで着くほどの近さだ。
そこに…一人の青年がいた。
管に繋がれている身体を起こし、ひたすら紙に何かを綴る。そうして書き終わると彼は密かに病院を抜け出して囚人が集まる場所に来ては手に持つ紙飛行機を強く持つ。
「あ、シズちゃん」
彼は一人の男の名前を呼んだ。彼が親しみを込めて呼ぶシズちゃんこと平和島静雄は、民族争いで負けたとある民族だった。静雄とは昔から仲が良かったのだが、民族争いが勃発してからはなかなか会うことが許されず…そうしていつしか静雄はこの場所に入れられ、彼は病人となっていた。
「いつも、ありがとな」
「いいって。…早く出られると良いね」
「全くだな…この場所は窮屈で好きじゃねーし」
「そうだね…はい」
彼は少し離れると手に持つ紙飛行機を柵を越すようにして飛ばした。それは見事に静雄の手の中に落ちた。
中に書かれているのは愛言葉。
互いに想いを綴った紙をこうして飛ばしては読んでいた。言葉じゃ伝えきれないことを全部つめて。
「じゃあ俺も」
柵を越えて届く紙飛行機。
紙一枚を渡す幅ならあるのだが、彼らはわざと飛ばして居た。
それは二人して紙飛行機が好きだったから。高い空から飛ばすと知らぬところに落ちて行く。いつか紙飛行機に乗れたら良いのにね、とも話してたぐらいだ。
「愛してる」
「俺も」
柵の間から二人はキスをしては幸せそうに目を瞑る。民族争いというものさえ無くなれば静雄は死なずにこの場所から出られる。彼はこの地をまとめている父親に頼んで勃発をやめさせている。彼自身で止めたかったが、その前に病気で倒れ、残念ながら自分の手では止められない。
「臨也、もし俺がこの場所から出られたらもっと遠くに行こうな」
「うん。二人で暮らせる場所に」
「お前の病気も治せるとこに」
「絶対だよ」
「もちろんだ」
静雄が笑うと遠くからホイッスルを鳴らす音が響き渡った。休憩時間はたったの五分間だけだ。後はいつものように働いたりして、寝るのは一時間だけの屈辱的な場所。
それでも静雄は、彼が会いに来てくれ愛してると囁き合うだけで生きる糧となっていた。
「じゃあ行くな」
「また明日」
「ああ」
小走りで去って行く静雄を彼は軽く手を振って見送る。
「早く…出してあげなきゃ」
彼が力尽きてしまう前に。
自分が、力尽きてしまう前に。
軽く咳き込んでから彼は病院へと戻って行った。
静雄からの紙飛行機を広げてみると達筆な字でこう書かれていた。
『愛する臨也へ
今日もまた鞭とかで打たれた。けどお前を思い出すと痛さも何もない。お前の声を思い出すだけで笑みが溢れる。愛してる。ずっと愛してる。お前のすべてが愛しい。この檻から出たらきちんとプロポーズがしたい』
「プロポーズって…ははっ」
あまりの嬉しさか、笑みが零れ足取りも豊かだ。何枚もたまっていく紙飛行機。愛言葉。彼は胸に手紙を抱き締めたまま密かに病室へと戻った。