教室に入ると、シズちゃんは新羅たちと話していた。声をかけようか迷ったが、勇気を振りしぼって輪に入る。
「おはよう」
「おはよ、臨也」
シズちゃんはチラッと俺を見てから小さく笑った。
「おう、寝坊か?」
「えっ…あー、うん…ちょっとね」
前と変わらずに会話してくれたことに少し驚きつつも、またいつもどうりの日々が戻って来た。ただ前と違うのは、俺の心にはシズちゃんへの想いがあるだけ。
「……悪いな」
「え?」
「……その、俺の誤解で、お前に悪い気にさせて」
「あー。俺も悪いよ、たとえ依頼だからって君を無視したりして」
「それは仕方ねぇだろ?」
「うん…」
もうちょっと、俺も相手の行動や思惑に気付くべきだったかもしれない。
…だが、俺をこんな目に遇わせたアイツには同じぐらいの地獄を見て貰うしかないな。うん、絶対に後悔させてやる。
「臨也、今日暇か?」
「ん?うん」
「マック寄るついでに行きてぇとこあんだが、付き合ってくんねぇか?」
「うん、別にいいよ」
シズちゃんから誘うなんて珍しい。いつもは俺から誘うばかりなのに。
放課後が待ち遠しくて仕方なかった。だって久々にシズちゃんと遊べるんだし!
「じゃあ、また放課後な」
「うん」
それからいつもの日常に溶け込んだ。
放課後になると、約束どうりにマックへ行ってポテトとか食べて、夜の六時頃。シズちゃんは俺を池袋から少し離れた丘公園に連れてきてくれた。そこは街を一望出来て、夜はライトがより美しく見せた。
「うわあ。綺麗!」
「だろ?ずっとお前と来たかったんだ」
何それ、口説き文句みたいだよ?
そんなの好きな相手に言えばいいのに。
「…臨也」
「ん?」
「…あー、んーっとな…手前ぇを避けてるうちに気付いたんだけどよ…どーも、手前ぇが俺の傍から離れるのは嫌みてぇなんだ」
「え、え…あ。シズちゃん?」
何、いきなり、変なの言い出すんだ?
それって、自惚れちゃうじゃん。
「だから。ずっと傍に居てくれ」
「シ、ズちゃん」
何これっ。やばい、顔赤いかも…!プロポーズみたいじゃんか…っ。
「シズちゃん、あのさ…あの、自分が何言ってるか分かってる?」
「あ?当たりめーだろ」
「それ…プロポーズの台詞だよ…?」
「…まあ、そう、だな」
「俺、自惚れちゃうよ?」
もしかしたら君は俺が好きなのかもって。そんな解釈していいの?
「…自惚れとけ」
「……!シズちゃんっ」
夢じゃないよね?
俺の初恋が実ったなんて、夢じゃなくて現だよね?
何このアッサリ実っちゃう感じ!こんなの現実に起こらないと思ってたのに。
「好きだよ」
「ん…」
「すき」
なんだ。なんか、アイツのおかげでこうなった感じもするから今回ばかりは見逃してやろうかな。うん。
重なる唇から熱が上がり、身体中に蹂躙していく。ヤバいヤバい、もう死んじゃうかもしんない。
「好きっ…」
ああでも、死ぬのは嫌かな。まだこの甘い時間に溺れたいもの。
「えー勝手にアッサリとバカップルに成り果てたのは分かるよ。うん」
「新羅さあ、いつ死ぬの?」
あれから五年の月日が流れた。俺とシズちゃんは相変わらずラブラブだ。
今日は新羅と久々に二人鍋で、昔の事をほじくり返している。
「まあ…なんだかんだ、泣いた次の日に結ばれるなんて異例だけどね」
「うーん、まあね」
「良かったじゃないか。早めに初恋の決着がついて」
「悩まずには済んだしね」
初恋は叶う事は無いと良く聞くが、案外そうでもない。むしろあの歳で初恋だったのは自分でも驚きだ。
人類を愛していた頃に初恋なんてありはしないからね。小さい頃から人間が好きだったから、女の子に興味なんてないし。
「末永くお幸せに」
「ふふ、ありがとう」
初恋、こんにちは。
(ああ まだこの初恋)
(ずっと続けてばいいのに!)