無意味な呼吸を繰り返す。
手首から流れる血を呆然と見つめながら息を取り込もうとすれば、遮られたのは悪魔の声。

「臨也さん、まだ生きているんですか」
「はっ…ふは、帝人、く…っ」
「手足を拘束されて水に鞭にやってましたから死んだのかと思ってましたが」
「そ、れ…犯罪…で、しょ?」

彼の部屋に連れて来られた俺の手足にはきつく鎖で拘束されていて、もう何時間も水をかけられたり叩かれたりしていたから身体はボロボロだ。息をするのさえ困難だというのに。

「臨也さんだって、散々と僕たちを罠にかけたじゃないですか。正臣にだって」
「復讐…かい?はっ…ふは、あっ…ぐ」
「ええ、そうですね。正臣を苦しめた分…貴方にも同じ痛みを受けて貰います」

彼は、正臣くんの過去をボロボロにしたのは俺なのだと踏んでわざわざ呼びつけてはこうやって屈辱を与えている。
帝人くんは正臣くんが好き。
だからこそ…許せなかったんだろう。

「臨也さん」
「っ!?ぃだああああああぁああァ!」

名前を呼ばれたかと思うと、次に背中に熱い何かが当てられた。それが熱した油なのだと気付いた時には背中がヒリヒリしてまた手足をばたつかせる。そのせいで手足には血がにじんでいる。

「やめ、帝人くっ…熱い!」
「でしょうね。でもこのフライパンの中に入ってる油…全部注いだらどうなるんでしょ?」
「やめ…それだけ、は…やめて」

ゆっくりとフライパンが傾く。
俺の中に渦巻く全てが終わりを告げるかのようにして。

「臨也さん」

悪魔は囁く。

「死んじゃったら、ごめんなさい」

フライパンが、

傾いて、


つまるところ何もない
(あるのは死の恐怖だけ)
(これも俺が愛した人間の性)

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