父親と別れたあと、新羅と門田くんに謝りつつホテルに向かうことにした。そこでチェックインを済ませておいて後は自由に遊び回ろうと言うことで荷物を置くと必要な物だけを手に京都の街に繰り出して来た。
あちらこちらで人々がざわめく声。
観光客はさすがに多く、都内の人は誰なのかと耳を疑いたくなる程に今日は観光客に溢れかえっていた。

「うわあ…さすが。沢山の人だね…」
「何見に行くか。やっぱ王道の金閣寺とかそこらへんか?」
「あ、いいねいいね。久々にみたい」

久々…か。俺は初めてだからワクワクするんだけど。
新羅と門田くんはバス停に向かいながら中学時代を振り返っているようだ。中学時代なんてものは俺には無いから分からないけど、もしあったとしたなら…こんなにも臆病に生きてなど居なかったかな。
もっと俺が強かったら、キスをしてくるあんな父親に従わずに済んだかな。それでも俺はかけがえのない家族を手に入れたのだから全てを否定することはできない。かけがえのない人も出来たのだから。

「臨也、大丈夫か?」
「うん。平気」
「あんま体力無いんだから気をつけろよ」
「分かった。ありがとう」

シズちゃんは相変わらず、俺を心配しつつ新羅たちの会話に混ざり、楽しそうだ。遠くからでもその光景を見ているだけで幸せになれると言うものだから俺も変なもんだ。
バスに乗り込むと意外と人は居なくて一番後部座席に俺たちは座った。

「高校でももう一回、旅行行くからね」
「そうなの?」
「そーだよ、そんなの常識…あーごめん」
「いや、別に良いよ」

俺にとっての学校の常識と呼べるものは全部が皆無も当然。そもそも俺は外で何が起こっているのかさえ明白では無かったのだから当たり前だろう。外で何人が殺されたとか、外で学校問題があるとか、外で国会がどうだとか、全部シャットダウンされていて何も知識を知らない。もちろん必要最低限の知能はあるが、それ以外には疎い。

「深く気にすんなよ。これからちょっとずつ外の世界に慣れれば良いんだからな」
「それは異世界の人間に言うべき台詞じゃないか…?」
「うーん。そうだね。静雄くんのだと何だか異界から来た人への台詞だ」
「うるせぇ」

俺は俺のままで良い。何も知らなくたってちょっとずつ覚えていけば良い。まだ不慣れだけどシズちゃんが居れば大丈夫。もちろん新羅や門田くんもね。

「よし!いっぱいは見て回るか!」
「おーっ」

俺たちの旅行はまだ始まったばかりだ。


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