思わず視界が揺らいだ。何でこんな場所に父さんが居るのか。そう問いただそうとも声が出ない。
「あっ…あ…」
「今までずぅぅっと探したんだぞ。さあ早く父さんと帰るんだ」
「なっ……ん、」
「ずっと平和島さんの家を見張っていたら今日お前がバック持って出かけるのを見たからついて来たんだよ」
なんだ、こいつ。
父親のくせにストーカー?
ふざけんなっ…絶対に帰るわけには行かない。
「臨也、行くぞ」
「っ…」
無理矢理腕を引かれたが、俺は素早くそれを弾いて一歩下がった。このまま此処に居たら危ない。駅はすぐそこだし、連れて行かれたら逃げる隙が危うくなる。
「臨也ー?」
遠くで新羅の呼ぶ声がする。
よし、
「……あの、人違いじゃないですか?すいません行きますね」
「待て。もうお前を逃がさない。帰るんだ」
「だっ…やめ、やめてよ!」
逃げようとした俺は残念ながら父親に腕を掴まれてしまった。体格差も体力差も父親の方が勝る。俺は暴れて抵抗するしか無かった。
シズちゃん。
シズちゃんシズちゃん!
「……離せよ」
駅への階段を降りる途中。父親の手をシズちゃんの力強い腕が止めた。
「静雄くん。君が止める権利は無いんじゃ無いのかい?この子はウチの子だ」
「ちげぇよ。コイツは平和島家の子だ」
「何を冗談を。折原臨也だろう」
「は、残念だがウチには折原臨也は居ない。この平和島臨也は居るけどよ。まあとりあえず、アンタは赤の他人だ。離せよ」
シズちゃんのその言葉に涙が出そうだった。俺は折原臨也じゃない。平和島臨也と言ってくれたことが酷く嬉しかった。
助けてくれたのも嬉しかったのだけれど、家族の一員だと改めて言われるととても嬉しい。
「君と話して居ても埒があかない。とりあえず帰るぞ」
「だからよ、話聞けよ。コイツは手前の息子じゃねーんだっつの」
「何だその口の聞き方は!え!?大人に向かってなんだい!どうせ君は頭も悪いんだから留年でもするんだろう?金髪に何かして、悪さばかりしてる子にうちの子を預けられるか!」
な、んだって?
「…ふざけんな」
「……臨也?」
「ふざけんなこの馬鹿親!何が頭悪いだ悪さばかりしてるだあ?シズちゃんは優しいし小学校の時から俺は大好きだよ!平和島さん達は俺を家族だと思ってくれてる!もうあんな家には帰りたくない!お前なんか……電車に轢かれて死んじゃえ!」
あ。酸欠。
「はっ……はぁ」
「臨也…お前、父親になんて事を…」
「アンタは父親じゃない。折原なんて名前なんかじゃない…早く帰れよ」
俺の父親はおじさまだけ。母親はおばさまだけ。兄弟はシズちゃんと幽くんだけ。俺の今の大切な家族だ。
「行こうシズちゃん」
「……ああ」
放心状態の父親をほっといて、俺たちは階段を再び上がった。
あー久々に叫んだから喉乾いた。あとでジュース買おうかな。
「……臨也」
「ん?」
「俺のこと、好きなのか?」
「ん……?ん…好きだよ。シズちゃんは俺の大切な友人だもの」
「そうか。ありがとよ、嫌われて無くて良かった」
本当なら友人としてでは無く、恋愛対象としてシズちゃんが好き。大好き。
でもそれを言うことは絶対にできない。
シズちゃんには……まだ伝えちゃならない想いだから。
「喉乾いた」
「ジュース買うか」