「え?旅行?」

学校に入ってからもう一ヶ月も経とうとしている冬の時期。教室で手を擦り合わせながら俺は間抜けな声で目の前に居る新羅に返した。

「そう、旅行。あと少しで冬休みじゃないか。だから何処か四人で遠出でもしようと思って。臨也と静雄だって、バイトしてるんだしそこそこ旅行行くぐらいのお金はあるだろう?」
「そう…だけど……」

新羅がいうように、俺は最近バイトを始めた。さすがにただ飯なんて相手に失礼だからと、自分のものや少しでもおばさまに負担をかかせない為にバイトしている。シズちゃんも自分の小遣いの為にバイトを始めていた。

「俺は行きてぇな。臨也も行くだろ?」
「……うーん…なんかおばさまにも悪い気がするし…」
「そんなことねぇよ。母親も喜んで見送るって」
「本当?大丈夫かな?」
「一ヶ月も一緒に居てまだ分からないのか手前は…」

分からないよ…。
だって…おばさま達を残して自分だけ楽しい思いをするのもなんだし…ただでさえ家族にして貰って居るのに、なんだか悪い気がしてならない。

「気にすんなって」
「…でも、」
「あーうぜぇな!手前ぇはいつになったら俺たち信じるんだよ!」
「なっ…信じてるよ!でも、俺なんか楽しんでるのも……悪いかなって…」
「本当、そういう手前ぇが一番嫌いだ」

……嫌い?

「は?なっにそれ。俺が今までどんな気持ちかも知らない単細胞馬鹿に言われたくないよ!」
「んだと!?」

何つっかかってんだろ俺。
嫌い?
こんな俺は、シズちゃんは嫌い?
なら、どうしてずっとずっと、傍に居てくれたりするのさ。とっとと手放せば良いじゃん。ほんっと意味分かんない。

「おい、お前ら……」
「ちょ、臨也に静雄っ…落ち着いて」
「もう良い!シズちゃんなんかと旅行になんか行きたくも無い!勝手に行けよ!」
「ああそうするさ。手前ぇなんか一生引きこもりでいろ!」
「……シズちゃんの、ばか」

最後は情けないぐらいの泣き声で、俺は教室を飛び出した。放課後だったし誰も居なかったけど俺は必死に涙を堪えた。

嫌われたのが怖い。

いちいちつっかかった自分も自分。

分かってる。
悪いのは俺なんだって。
もっと素直におばさま達を信頼して旅行に行くと言えば良かっただけの話。
おばさまは優しいから承諾してくれるのも分かってたはずなのに。

なのに、まだ俺は臆病で。





「…臨也、行っちゃったよ?」
「知らねぇよ」
「アイツの性格、分かってんだろ?酷く臆病な奴なんだって」
「……」
「まあ、俺は経験した事もねぇから分からねぇけど…今のは酷いと思うぞ」
「……」
「静雄。君も素直じゃないね」
「……うっせえ」


(ああ、)

(シズちゃんに会いたい)

((俺たちは、どうしたら良いんだろう))

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