キーンコーンカーンコーン。

小学校以来のチャイム音に、何だか懐かしい気がしてならない。
俺は今、平和島家のおかげで学校に行っている。シズちゃんと同じクラスで、「折原」という名字は捨て、「平和島」という名で自己紹介をした。

「えと…平和島臨也です。宜しくお願いします」

自分でも平和島臨也と名乗るのが恥ずかしい。本当にシズちゃんの家族になったようで。
シズちゃんを見れば嬉しそうに笑って俺を見てくれたから、思わず俺も微笑んで返した。

「じゃあ席は……門田の隣が空いてるな」

空いてる席に俺は行くと、隣にいる門田という人にお辞儀する。

「俺は門田京平だ。よろしくな」
「よ、宜しく……」

学校はやっぱり凄い。俺は数人しか会った事が無いからこんなに大勢の中に自分という存在が居るのは、偉大さを感じる。
大袈裟な。て感じかもしんないけど、長年学校になんて行かなかった俺にはそう感じる。
その時間は、担任の長い話で終わり休み時間になった。

「大丈夫か?目が死にかけてんぞ」
「え、あっ…平気。何だか久々過ぎてぼーっとしてた」

「へえ!新入生って静雄くんの双子の弟くんか何かかな?あれ…でも確か静雄くん、幽くんしか居なかったよね?」

いきなりシズちゃんの横から良く喋る眼鏡が出てきた。いや眼鏡をかけた人なんだけど。…この人見たことあるな…。

「えっと…」
「ああ。コイツは気にすんな。いつもはこんな奴じゃねぇから」
「言いがかりだなあ。はじめまして、僕は岸谷新羅。普通に名前呼びしてくれて構わないよ」
「臨也…です」
「分からないとこは門田くんに聞くのが一番だよ」
「なんだそれは…」

なんだか新羅という人と門田くんとシズちゃんは親しみを込めた感じで話始めた。俺は知り合いとしか会話はした事が無かったからついていけない。でも三人の楽しそうな会話を聞いているだけで俺は幸せだった。たとえそこに存在しなくても。

「で、静雄くん。もしかしてこの子、平和島臨也じゃなくて前は折原臨也って名前じゃなかった?」

あ。

「…まぁ、分かるだろうな」

ああ!この眼鏡分かった!

「新羅!ああ…岸谷新羅って…あの子か」
「やっと思い出した?小学校の時にたまーに遊んだ覚えがあるんだよね。それに君は変わった名前だったから覚えてるよ」

岸谷新羅。そうだ、小学校の時にシズちゃんと三人で遊んで居たことがある。小学六年になれば喧嘩ばかりだったし、新羅も何か用事で帰ってしまってたし…あまり深く覚えて無かった。

「静雄くんの養子にでもなったのかい?」
「いや…そういうわけじゃ、無い…けど」
「まあ他人の過去に口出しはしないけどね。それより小学の印象とだいぶ変わったねぇ…」

今の俺は何にでも臆病だ。特に「人間」に対しては。
人と関わりを持たなかったせいか、どう接したら良いのか忘れてしまった。

「折原臨也…か。確かに変わった名前だな」
「良く言われるよ」
「悪い意味じゃねーんだ。気分悪くしたらすまん」
「いや…平気」

俺は「折原」を捨てたんだ。
今は「平和島」になったんだ。
あの家に繋がりなんか無い。
あの家のことはもう忘れよう。

あの家は……俺の戻る家じゃない。

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