もともと、家族と呼ぶべきものはこんな崩壊的なものでは無かった。いつもの日常は嘘でまみれて居るだけで。
「おい!ふざけるな!アイツを何処にやったんだ?ええ!?」
母親は父親が居る前では決して暴言を吐かない。優しい母親を装い、偽りの愛で接して来た。それが酷く目障りだった。
「聞いているのか!!この俺が電話している時に!なんでアイツが居なくなる!!なんとか言え!」
本当の愛が欲しい、というのは少し程遠い。俺はこのままの少し離れた愛の方が良い。俺とシズちゃんの間のような愛。まあ俺の一方的なんだけど。
「アイツを一番愛して愛して愛して愛して愛してやったのは、この俺だ!アイツを。臨也を何処にやったんだこのアマが!」
だがその一方で。
折原家では、家庭崩壊が酷くなって居たのを俺は知らない。
午後になると、昨日母親が用意したキャリーバックの中に入っていた封筒を手におばさまの元にやってきた。
「あの…」
「ん?どうしたの?」
「これ。母さんが用意してくれて…これで静雄くんと同じ学校に行かせて貰うようにしてくれ…て書いてあったんです」
「あら、別にこんなの要らないのに…」
「良いんです。母が、そうして欲しいと思ってるので…」
紙を読んだおばさまは微笑むと、俺の頭を撫でた。
「よし!じゃあ近々に学校の手続きしに行きましょうか」
「あの…でも、学校に行って無い人が行けるんですかね…」
「うーん。本当は無理だけど、あの学校の校長、私がお世話した事がある知り合いだから頼んでみるわ」
「ありがとうございます…」
「いいのよいいのよ!」
やっぱりおばさまは優しい。
本当に、こんなにも暖かい家族に囲まれたのなんて初めてで戸惑う事もあるけど、ちょっとずつでも何か恩返しが出来たら良いな。
「本当、ありがとうございます。何か手伝えることがあったら言ってください」
「ふふっ、臨也くんの優しい性格は母親譲りかしらねぇ。昨日電話をくれたあの人、凄く優しい声色してたの」
おばさまも母親の異変には気付いて居たらしい。小学の時は優しい母親で、おばさまも羨ましがってたという。だが最近会った母親は何処かネジがとれたかのように、おかしかった。子想いの母親が俺に怒鳴りつけたのを見た時、何かあったのだと察しても居たらしいし、シズちゃんの申し出も断る事は無かった。
「でもね。昨日電話して来たあの子は小学の時のまんまよ。必死な声で『臨也が父親に嫌な目に遇ってるの。悪いとは思うんだけど預かってもらいたい、うぅん、臨也を平和島家の家族にして欲しいの』て言ってたのよ」
どんな目に遇っているのかは詳しく話さなかったらしい。さすがに親友でも言えないだろう。毎晩父親にキスをされていて愛されているなんて。
「……そうだったんですか」
「ええ。『母親らしいこと出来なかったし、あの子を苦しめてばっかりだったから最後ぐらいは母親らしい事がしたい』て。だからあまり自分を攻めちゃ駄目よ」
そうは言うものの、結局母親の本当の性格のねじ曲げて狂わしたのは紛れも無く俺だ。そう思うと居たたまれない。
「さて!悲しい話しちゃったわね!もうお昼だしご飯食べましょうか」
「あ。……はい」
今、母さんは……どうしてるんだろう。