その日は風呂に入ってシズちゃんのベットに入って一緒に寝た。日付も変わってしまい、シズちゃんは学校だというのに俺が眠るまで頭を撫でてくれた。
そうして訪れた朝。
うるさいアラーム音に俺とシズちゃんは起きた。
アラームの音なんて久々に聞いた。

「悪いな。お前まで起こしちまって」
「平気だよ。もうニートみたいなもんだから久々にアラーム音に起こされた気がする」
「そんなんじゃねーだろ?先、下に行っててくれ」
「うん。分かった」

シズちゃんの部屋から出ると、慣れない景色に少し戸惑う。ここは自分の家ではない。シズちゃんの両親はここを俺の家だと思ってくれて構わないと言われたが、やはりなかなか実感が湧かない。
それに、昨日おばさまが言ってたシズちゃんの弟くんに嫌われたらどうしよう。とかそればかり不安で。
リビングを開けるとそこには色とりどりの食卓と、学ランを着ている子が居た。この子が幽くん…かな。

「あら臨也くん、おはよう」
「あ…おはようございます…」
「ほら幽。今日から家族になる臨也くん」

そう言われて振り返って来た彼は、酷く無表情な顔をしていた。眉ひとつ動かさない彼に、歓迎されて無いのかと思いつつも挨拶をする。

「はじめまして。折原臨也です、その…突然お邪魔してすいません…」
「あ、いえ。平和島幽です」

元々笑わない子なのかな…?

いや、そんなこと無いか。無表情で挨拶をされて何だか気を落としているといつの間にか着替えて来たシズちゃんが隣に立っていた。

「別に幽はお前の事邪魔だとは思ってねぇよ。むしろ歓迎してる」
「え?」
「悪ぃな、幽は昔っから感情を表に出すのが苦手な奴なんだ。無表情だからあんま良い感じはしなかっただろうけど、そこはアイツの性格だから目を瞑っててやってくれ」

なんだ…嫌われてたんじゃ無かったのか。なら良かった…。
幽くんは「すいません」と謝ったので俺も誤解した詫びに謝った。

「ほらほら!三人してお話したいのは分かってるけどね、ご飯食べちゃいなさい」

おばさまがまた食事を運んで来て俺とシズちゃんも席に着いた。

「じゃあいただきます」

おばさまの一言に、家族達は一斉に「いただきます」と言ってからご飯を食べ始めた。俺も手を合わせていただきます、と言うとおばさまは笑って「いっぱい食べてね」と言ってくれた。
もともと、あまり家族内での会話と言うのは無かった。まあ妹たちとはたまに喋るけど、それ以外は極力会話は控えていた。
しても母親は何も答えてくれない。父親は頷くだけ。妹たちは「ふーん」とか少し興味を持つだけ。
だから会話などはほとんどしなかった。
家族というもので、こんな賑やかなのは初めて見たかもしれない。

「ごちそーさま」
「シズちゃん早いね…」
「まーな」
「ご馳走さま。じゃあ学校行ってくるね」
「今日は早いんじゃない?デザートは?」
「今日、日直なんだ。デザートは帰ってから食べるから残しておいて」
「そう。気を付けて行ってらっしゃい」
「気を付けてな」
「頑張って来いよ」
「行ってらっしゃい」
「うん。行ってきます」

幽くんは鞄を持つとそのまま玄関に向かった。シズちゃんはデザートのプリンをもう完食しているところ。俺なんか半分までしか行ってない。そもそも小食なので胃がモノを受け付けない。
前はそんなんじゃ無かった。普通にシズちゃんみたいにご飯食べてたし…でも、母親が俺のご飯をわざと減らしたのだ。「家にずっと居る奴なんかに食わせる飯なんか無い」と。だからそれが慣れてしまって今ではあまり食べれない身体になったのだ。

「臨也くん、お口に合わなかったかしら?」
「あ、ち、違います。凄く美味しいです。ただ…俺が小食なので…あ、あまり…食べれないんです…」
「あら!良い男子高校生が小食なんて駄目よ!おばさんもいっぱい食べれるように料理上手くならなくちゃね!」
「あっ、すす、すいません。今のままでも十分美味しいですよっ」
「無理しなくて良いのよ」
「そうだよ。別に遠慮する事はない。君はわたし達の家族になんだから。悩み事とかあったら素直に話してくれ」

シズちゃんの父親はニコリと笑いながら「ご馳走さま」と茶碗に箸を置いた。

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