「どういうことだ」
リビングに行って父親が座る前に腰かけると関口一番にそう言われた。
理由は分かってる。シズちゃんについてだろう。
「……」
「静雄くんと毎週会ってるらしいじゃないか。それに家出しようとしたらしいな?」
母親は下がったのか、リビングには俺と父親しか居ない。
「どういうことだか説明しろ」
「……しず…お君とはたまたま、おばさまについて来るから話相手になって貰ってるだけ」
「たまたま?嘘だろう?臨也には父さんしか居なくて良いんだろうが」
「……」
違う。
違う。
俺にはシズちゃんさえ居ればそれだけで良いんだ。
このままじゃ、シズちゃん達が来ても家に入れさせない気がする。
どうしよう。
「昨日もあれだけ愛してやったのに。まだ足りないのか?」
「ごめんなさ…い」
「謝るんじゃない。まあ良い。これから静雄くんが来ても引き取って貰おう。彼と会って外に興味が出て来たらたまったもんじゃないしな」
「そんな…!」
それだけは勘弁して欲しい。
外に一生出なくたって良い。
でも…シズちゃんにだけは会いたい。
シズちゃんの存在そのものが、俺には生き甲斐となってるんだから。
「それだけはっ…」
「そんなに焦って。やっぱりたまたまじゃ無いんだな?そうだなあ。嘘を吐いた臨也にはお仕置きだな」
え?と顔をあげた俺の頬にビンタが入り、思わず床に転がる。それに父親は椅子から立ち上がって俺を踏みつけて来た。
なにこれ。
これが愛とか馬鹿なの?
「いたっ…痛いっ」
「もう父さんしか愛さないって誓うか?」
「っ…ぐああっ」
誓うもんか。
俺が愛してるのはシズちゃんだけ。
あの優しいシズちゃんだけ。
「返事は!」
「っ、っ!」
「臨也!お前!あれだけ愛してやったのに何だそれは!」
あんなの一方的だろ。
それで俺も父さんを愛するとか無い無い。ふざけんな。
外にも出してくれない。
会わせてもくれない。
自己満足で俺を縛ってるだけじゃないか。
「いたっ…痛いよっ」
「早く返事をしろ!」
「う、う、っ」
もう駄目かな…と霞む床を見つめながら思っているとリビングのドアが開かれた。
「アナタ。さっき会社の社長から電話があったわ」
「…ち。そうか、今行く」
母親は父親がリビングから出て行くのを見送り、俺の方を向いた。また何か罵声を言われるんじゃ無いかと覚悟していたとき。
母親はこちらに来て、キャリーバックを渡して来た。
「……?」
「必要な荷物は入れて置いたわ。それにこれ、」
小さな紙には住所が書いてある。
「さっき平和島さんに電話してね、アンタを預かって貰うように頼んだのよ。快く受け入れてくれたから、ここに行きなさい」
「なんで…」
なんでここまでしてくれたの?
あれだけ嫌ってたのに。あれだけ俺のこと…嫌ってたのに。
「ここから出たって事はもう、アナタは私達の子供じゃないわ。早く出て行きなさい」
父さんが戻って来る前に。とせかされるようにフード付きコートを羽織り、靴を履く。
「気を付けてね。臨也」
小さく送り出してくれた母親に涙が出そうになった。
久々に優しい声で俺の名前を呼んでくれた気がする。
俺は取っ手を強く握り締めると、母親から渡されたシズちゃんの住所へと向かうことにした。