ぴんぽーん、

(あ。来た)

この音を聞く度に俺は嬉しくてついつい鼻歌を歌ってしまう。
週一にシズちゃんとおばさまが家を訪ねて来てくれる。母親は別に怪しがらずに、二人が訪れるのが同じく楽しみのようだった。

「一週間ぶり」
「だな。意外と早いもんで長いよな」
「俺にとっては長いけど」

前同様にソファーに座って制服を着たシズちゃんがやってくる。学校に行くふりをして出てきたのだという。おばさまも、母親の異変に気付いていたらしく、シズちゃんが「週一でアイツに会いに行きたい」と言ったのを理由も聞かずに返事をしたのだという。

「ねえシズちゃん」
「なんだ?」
「勉強教えてよ」
「……お前、小学校の時から俺の脳内は知ってんだろ」
「まだ小学生並の頭脳してるの?少しは進歩しなよー」
「うっせぇな!これでも頑張ってるんだっつの」
「まあ少しは分かるでしょ?ね、教えてよ。へーわじませんせ?」
「やめろ気持ちわりい」

小学校の時と変わらない言い合いにシズちゃんも懐かしむような顔をしてから「何の勉強だ?」と聞いて来たから英語だと答えた。

「今なにやってるの?」
「現在進行形だの何だの…」
「どういう意味?」
「……覚えてねぇ」
「駄目じゃん」

それ中学に習うでしょ?と言ってやれば同じように「覚えてねぇ」とか返してので思わず笑ってしまった。学校の行って無い俺でも分かるのに、なんで行ってる本人が分からないかな。まぁこういうところは全く変わっては居ない。

「シズちゃんほんとに大丈夫?二年に上がれる?」
「いらねぇ心配すんな。ちょっとこの前のテストがヤバかったぐらいで…二年には上がれる…はず」
「うん。あんま無理しないように」

中学の時とか居残りして放課後、補習受けてる姿が目に浮かぶよ…。

「手前はどうなんだ?」
「変わり無いよ」
「そうか…」
「大丈夫だよ。別に変な事までされて無いから」
「何かあったら言えよ。できるだけの事はするからよ」

本当、顔に似合わずシズちゃんは優しい。まるで自分事みたいに眉間に皺をよせて辛そうに俯く。

「…要らぬ心配かけてごめんね」
「そんな泣きそうな顔すんな。せっかく会えたんだからもっと手前の笑顔がみてぇ」
「何それ…」

ぶっきらぼうのくせに優しい。不器用なのに不器用なりのやり方で励ましてくれる。そんなシズちゃんが益々俺は好きになった。
いつの間にか出会いから一ヶ月は経とうとしていて早いものだと思う。夕方になると二人は帰り、俺も部屋に戻る。また次の週になればまた会いに来てくれる。それ以外の日は暇だけれど、なんだかその退屈でさえも彼のことが頭でいっぱいになり退屈では無くなっていて。

(早く、会いたいなあ…)

もっともっと、たくさん話せたら良いのになあ…。


「臨也」

そんな事をのんびり考えて居ると母親が部屋にやってきた。

「父さんが呼んでるわ」

その言葉に、嫌な予感しかしなかった。


- ナノ -